ソトブログ

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日々のレッスン #003「何十本もの付箋が飛び出たわたしの読み終えた本は、鳥のように野に放たれる。」

 

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写真はトビ(天神崎、2022.3)

 

 ところでその野鳥だけれど、わたしはいつまでたってもその知識も、彼ら彼女らの姿を双眼鏡で捉える俊敏さも、あるいは写真に収める技術も、いつまでたってもビギナーの閾だ。カズヒコのリクエストのままに各処で行われる探鳥会に参加し、図鑑や野鳥の生態について書かれた本を読みはするが、どうしてもわたしは枝葉末節に気持ちが、眼が、向いていってしまう。

 というのはいつごろからか、わたしは鳥とは関係のなさそうな映画や本、音楽のなかに鳥を見出すことに興味のベクトルが向かってしまった、ヒマさえあればスマホをだらだらいじってしまうのは現代人の習いだけれど、そんなときわたしは、アップルミュージックの果実に群がる鳥を探す。

 今日の収穫はmacaroomの「tombi」。とてもいい。息の詰まるような生活を歌いつつ、現れるトンビ(トビ)は、そうは見えなくても恩寵のようだ。

 

 読んでいる本の気になった箇所に極細のフィルム付箋を貼っていくのは現代人の、ではなくて<現代人であるわたし>の習慣で、本の天や小口から少しずつ、何十本もの付箋が飛び出たわたしの読み終えた本は、その付箋が小さな羽根の集まりのようで、わたしがいないところで、わたしがこの世にいなくなったあとで、鳥のように野に放たれる。いい気分だ。

 

 見る者の目を釘付けにせずにいられない写真が数多い。たとえば笑っているような表情でこちらを振り返っている、彼のアイコンともいえる野良犬の写真はそのひとつだ。ふだん見ている現実のどこにこういうシーンが潜んでいるのかと不思議に思わずにいられないが、狙っては撮れないショットなのは確かだ。膨大な量が撮られるなかから浸透圧のように上がってくる、撮ることと歩くことが不可分な人だけが手にすることのできる褒美のようなものと言える。

 

大竹昭子『スナップショットは日記か? 森山大道の写真と日本の日記文学の伝統』(カタリココ文庫、2020年)より

katarikoko.stores.jp

 

シリーズ「日々のレッスン」について

日々のレッスン」は、フィクションと日記のあわいにあるテキストとして、不定期連載していくシリーズです(できれば日記のように、デイリーに近いかたちで続けていけたら、と考えています)。また、それにApple Musicから選曲した<野鳥音楽>プレイリストを添えた「日々のレッスン ft. Bird Songs in Apple Music」を、月1、2回のペースで更新していく予定です。ご期待ください。

 

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