ソトブログ

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日々のレッスン #011――ハロー世界。わたしはいつも空腹で、だからおいしく食べられることが本当に嬉しい。

 

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写真はエゾビタキ(2022.10、和歌山県某所)

 

「メジロ。/夕方、書斎のソファーに(いつものように)よこになっていると、メジロ一羽、ムラサキシキブの枝の脂身に来て、つつく。」(庄野潤三『鳥の水浴び』)。こんな書き出しで始まる、日常を切り取った老境の長編小説。こんなふうに生きたい。何もしたくない一日がある。何もしたくないが一ヶ月続くことがある。でも朝起きては朝食を食べて仕事へ行き、わたしは帰って来るということは繰り返している。「何もしたくない」はそれからのことで、今書いているようなこれ、「日課にしたい」と思って書いているこのこれ、この文章さえも書きたいと思えなくなる。

 

 そんなときに、えいやっ、という気持ちで寄った書店ででも、心地よい時間を過ごすことができて、欲しかったと思う本を手に取ることができた、そんな時間と場所は本当に貴重でありがたく、そんな空間を生み出して、というか開いて経営している人たちには感謝しかないが、本当のほんとうはそんなスペース(場所/空間/宇宙)はカネや経済とは関係なく、いつの時代もずっとインナーにアウターに存在してきた、読みたいと思っていた本が思っていた以上のものだったとき、わたしはそのことを信じたい、というよりも信じられる気持ちになっていて、それだけで少し救われる。救われるのはわたしなのか、わたしの過ごす時間なのか、時間そのものなのか、ということは世界なのか。ハロー世界。わたしはいつも空腹で、だからおいしく食べられることが本当に嬉しい。

 

 あなたは今日何を食べましたか? どんな味がして、どんな気持ちになりましたか? 生きている限り必ずお腹がすいてしまうということを、なんだかとっても不思議で可笑しく思います。


くどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』(BOOKNERD、2018年)より。

booknerd.stores.jp

 

シリーズ「日々のレッスン」について

日々のレッスン」は、フィクションと日記のあわいにあるテキストとして、不定期連載していくシリーズです(できれば日記のように、デイリーに近いかたちで続けていけたら、と考えています)。また、それにApple Musicから選曲した<野鳥音楽>プレイリストを添えた「日々のレッスン ft. Bird Songs in Apple Music」を、月1、2回のペースで更新しています。

 

【日々のレッスン・バックナンバー】

 

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