ソトブログ

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“ヤー・チャイカ #2、あるいは、永遠にループよね。”――Birders' Songs(バーダーのためのプレイリスト)009

 

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Birders-Songs-009写真はノスリ(タカ科)。※本文とは関係ありません。

 

「ヤー・チャイカ」ということばが音楽に乗って飛翔し、再びわたしたちの耳へ――。

 

 今回の記事は、インドア派/文化系バーダーを自称する者として、
屋外のフィールドで野鳥観察をすることと、部屋のなかでひとり静かに音楽を聴くことを、イコール、等価なものに変えるプレイリストを。
 ――という、どう見計らってもアンフェィヴァラァブル(Unfavorable)な願いを込めて、わたし(ソト)が、Amazon Musicでプレイリスト作成していくシリーズ「Birders' Songs(バーダーのためのプレイリスト)」の、今回で9回目です。

 

“Ya Chaika(わたしはカモメ)”――Birders' Songs(バーダーのためのプレイリスト)007 - ソトブログ

 

 前々回、角銅真実さんのアルバム・タイトルからつけた、“Ya Chaika”というプレイリスト。その角銅真実さんのアルバム・タイトルの元となったロシア語、
Ya Chaika(わたしはカモメ)
 は、ロシア(当時・ソ連)発の女性宇宙飛行士、ワレンチナ・テレシコワが宇宙から地球へ発したコール・サインから採られていて、角銅さん自身はそのことばを、池澤夏樹の小説、「ヤー・チャイカ」(中央公論新社刊『スティル・ライフ』所収)で知られたそうです。

 わたしもその本は持っていて、読んだはずだったのに、「ヤー・チャイカ」ということばもその短編さえも、全く覚えていなくて、このたび、自宅の書架で奥へと3列詰めになっている文庫の棚から発掘して、読み返してみました。

 

「ヤー・チャイカ。わたしはカモメ。それがヴァレンチナ・テレシコワのコール・サインだった。軌道に乗った時、まず地上にそう呼びかけた」
「みんな夢中になってあの声をラジオで聞きました。しかし、わたしは彼女よりもガガーリンが好きだった。人間として最初に宇宙に出た人です。本当に男らしいと思って憧れました。彼のコールサインを知っていますか?」
「いえ、知らない」
「ヤー・オリョール、わたしはワシ。力強く飛ぶワシです。彼は一九六八年に飛行機事故で死んでしまいましたがね」
「そうだった」
「カモメみたいに一度飛んだら降りてきてのんびりすればいいのに、ワシはがんばりすぎたのよ」とカンナが言った。
「なるほど。しかし、われわれには高く高く飛ぶワシが必要だった。それをガガーリンはよく知っていた」

池澤夏樹「ヤー・チャイカ」(『スティル・ライフ』中公文庫)より

池澤夏樹「ヤー・チャイカ」は、本書『スティル・ライフ』に芥川賞受賞作「スティル・ライフ」と併録された、文庫本にして112ページの中編小説。単行本は1988年、文庫版は1991年刊。

 

 オリョール=ワシは、「国家や王権の象徴としても用いられ」(Wikipediaより)ることばでもあって、父権的な、権威主義的な時代であり、国であった'60年代、ロシア、ソヴィエト連邦のことを鑑みると、「ヤー・オリョール」ということばには、現代的な意味を見出すことは難しいような気がします。


「ヤー・チャイカ」ということばが現代の日本でも、軽やかに飛翔するように音楽に乗って浮遊し、わたしたちの耳を通してわたしたちの心を通り抜け、空へと染み渡る――。そんな想像をしてみるだけで、わたしたちにとって、世界にとって、カモメという鳥がいること、彼らにわたしたちの想いを託すことができること――そうしたことそのものが、神を信じないわたしにも、福音のように感じられます。


 今回も意図せず――というと嘘っぽいのですが、本当なので仕方がありません。――、Double Famousの「ヤー・チャイカ」という曲(M10)を見つけました。こんなふうに音楽も人も鳥も世界も、少しずつ、しかし確実に、繋がっている、世界はループしている。と感じられる今朝は、とても気持ちがいい。これを読んでくださった皆様にとっても、そんな朝でありますように!

 

プレイリスト「2022.01_ヤー・チャイカ #2、あるいは、永遠にループよね。」

※以下、選曲は全て、「演者/曲名」で表記しています。
※プレイリストのリンクをクリックすると、Amazonプライム会員の方は、Amazon Musicで聴くことができます。

2022.01_ヤー・チャイカ #2、あるいは、永遠にループよね。」(選曲:ソト

M01. Múm/Green Green Grass Of Tunnel
M02. Enemies/Phoenix Lights
M03. Everyone Everywhere/Wild Life
M04. Mice Parade/Nights Wave
M05. How to count one to ten/swimming pool
M06. a picture of her/Creepers
M07. ikanimo/永遠にループよね
M08. U-zhaan + Shuta Hasunuma/utopia for eeldog(from「マンガをはみだした男 ~赤塚不二夫~」オリジナル・サウンドトラック)
M09. OLAibi/the birds does not see
M10. Double Famous/я чайка (YA CHAIKA)
M11. 馬喰町バンド/ムツゴロウさん
M12. きのこ帝国/金木犀の夜
M13. パークハイツ楽団/青い水着

M12、きのこ帝国「金木犀の夜オフィシャルMV。2018.9リリースのアルバム「タイム・ラプス」より。こういう野鳥とは関係のない、美しい歌曲/佳曲を入れると、プレイリストも愉しさが拡がります。とはいえ金木犀には、その香りにつられてか、野鳥たちもよく集まってきます。

 

Birders' Songs(バーダーのためのプレイリスト)」という記事シリーズは、毎週月曜更新予定です。次回もお楽しみに!

 

こちらは、「ヤー・チャイカ」一篇のみを収録したKindle版。今回、文庫本を本棚から探すのに苦労したので、「本当に必要な」本は紙と電子書籍の両方で持っておくのもいいかな、と思いました。

 

【Amazon Music オフィシャルサイト】
Amazon Music Prime
Amazon.co.jp: Amazon Music Unlimited

 

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