ソトブログ

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見知らぬ同士が出逢う法悦と、その消滅。/“Seven Swans, seagulls, Quetzal”――Birders' Songs(バーダーのためのプレイリスト)008

 

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Birders-Songs-008-1 ※写真はソリハシセイタカシギ

 

 インドア派/文化系バーダーのわたし、ソトが、野鳥観察に出る日も出ない日も、部屋のなかやクルマのなかで、鳥見気分に浸れるプレイリスト/BGMをAmazon Musicで作成する記事シリーズ、「Birders' Songs(バーダーのためのプレイリスト)」。今回が年を明けて1回目、通算8回目となりますが、
 ――どういう基準で、どういうふうに選曲しているの?
 という疑問がわたしの許に寄せられはしていないまでも、おそらくそう思われているだろうな、と思わないわけでもない今日この頃。

 

わたしの選曲方法。

 

 ごく簡単に種明かしをすると、Amazon Musicが(そのAIが)、わたしのリスニング傾向からリコメンドしてくる楽曲を、タイトル/アーティスト/ジャケットを見て、「なんとなく気になる」なかから、出来るだけ「よく知らない」アーティスト/楽曲を片端から流し聴いていき、少しでも「!」と感じたら、新しい、空のプレイリストに突っ込んでいく。この時点ではそれぞれの曲が、鳥に関係しているかどうか、あまり気にしていません。
 ――すると不思議なことに、なかに数曲は、鳥の名前や、鳥に纏わる単語(bird、feather、fly……)や成句が入ったものが含まれることになっていて(「ことになっていて」というのも変なのですが、本当にそう)、12、13曲くらいになって、そのままの順番で通して聴いてしっくりくればOK、それで終わり。そうでなければ、いくつか曲を削ったり、順番を入れ替えたりして、スムースに始まって終わり、また1曲目に戻るような円環構造が生まれた(ような気がした)ら、OK。円環構造云々は、単純にわたしの好み。
 そしてそのなかでも気になる曲は、歌詞を調べたり、MVをYouTubeで検索したり。本当に「琴線に触れた!」と思ったら、CDを購入したり。このとき、思わぬ曲がさらに鳥に繋がっていたりすると――歌詞や、ジャケットや、アーティストの名前だったり――もっと嬉しい。でもあまり、深く調べ過ぎないようにしています

 

一対一対応した形で、「苦悩」を支払うほどの「エクスタシー」。

 

 わたしがバードウォッチングを始めたのはほんの偶然で――子どもの自然観察教室で、息子が夢中になったのを一緒に追いかけていたら、わたしもバーダーになっていた。というもの。バーダーは皆、双眼鏡を持っています。そして大半の人は、カメラを持って、鳥たちを写真に収めます。それから今までに見た鳥の種類を数えます(そのリストを、人生で観た鳥のリスト、「ライフリスト」といいます)。殆ど、が言い過ぎでも、バーダーの多くは、そういう志向を持ったクラスタではないでしょうか。
 御多分に洩れず、わたしもそうしたバーダーのひとりですが、わたしにとって、鳥を見る愉しみは何なのか? 今そこで見(まみ)えたあの鳥が、何という鳥で、どういう生態を持った鳥であるか、わかることなのか。ライフリストを増やすことなのか。――もちろんわたしも、そういったことに悦びを覚えます。
 けれど、わたしにとって身体の芯から、愉しいこととは? 悦びとしてあるものの、本質は何なのか――? アメリカの詩人、エミリー・ディキンソン(1830-1886)は、悦び=法悦=エクスタシーについて、こう書いています。

 

For each ecstatic instant
We must an anguish pay
In keen and quivering ratio
To the ecstasy

法悦の一瞬ごとに
わたしたちは苦悩を支払わねばならぬ
その法悦に呼応する
厳しく身のふるえる割合で。

 

エミリー・ディキンソン『対訳 ディキンソン詩集 ――アメリカ詩人選(3)』(亀井俊介 編・訳、岩波文庫)、‘For each ecstatic instant’(「法悦の一瞬ごとに」)より

 

 それと全く一対一対応した形で、「苦悩」を支払うほどの「エクスタシー」。写真に鳥を収めただけで、通り一遍の知識を得ただけで、AIに促されて曲を選んだだけで、それが得られようはずもありません。日々の悦びは、いたってコンビニエントなもので、ディキンソンが彼女の身に厳しく律したようなものとはほど遠いものかもしれません。そうだとしたら、検索窓にいくつか単語を入れて、調べて、わかったような気になってしまえば、見知らぬもの同士が出逢う「法悦」は、そこで消滅してしまいます。わからないものは、わからないまま。そうしてできたプレイリストを、わたしは次のプレイリストができるまで、毎日聴き続けます。――するとよくすれば、わたしが上記の通り、ほんの気楽な手慰みで選んで並べた1曲1曲が、その曲順が、必然に聴こえてきます。そうでしか、ありえないものに。
 ――なんて、本当のほんとうは気軽な愉しみなのに、そう思うことだってできるのです。だからわたしはこうしてプレイリストを公開していますが、実はこのテキストを読んでくれている方には、ご自身で、こんな遊びをしてみることをお勧めします。その方が、ずっとずっと愉しいですから。

 

プレイリスト「2022.01_Seven Swans, seagulls, Quetzal」

※以下、選曲は全て、「演者/曲名」で表記しています。
※プレイリストのリンクをクリックすると、Amazonプライム会員の方は、Amazon Musicで聴くことができます。

2022.01_Seven Swans, seagulls, Quetzal」(選曲:ソト

M01. kadan/prelude
M02. akira taniguchi/catnap
M03. Sleeping People/Blue Fly Green Fly
M04. ghost and tape/Ravnsborg
M05. Satin Jackets/Meridian Getaway
M06. George FitzGerald & Lil Silva/Roll Back
M07. George FitzGerald & Bonobo/Outgrown
M08. 百景/Coffee and Pudding
M09. Sufjan Stevens/Seven Swans
M10. mondfish/seagulls
M11. TTNG/Quetzal

George FitzGerald & Lil Silva - Roll Back (Official Video)

 

 今回はわたしにとっては、既知のアーティストはM09のスフィアン・スティーヴンスくらい。M09~M11の終わりの3曲が、「7羽の白鳥」「カモメたち」「ケツァール」と並んだ時点で「やった!」という感じなのですが、何故か2曲並べたくなった、George FitzGeraldが楽曲としてはお気に入りで、でも鳥とは全然関係ありません。

 

Birders' Songs(バーダーのためのプレイリスト)」という記事シリーズは、今後も続きます。昨年まで、毎週月曜更新としていましたが、隔週くらいになるかもしれませんが。次回もお楽しみに!

 

アメリカで最も偉大な詩人のひとり、エミリー・ディキンソンの残した1700編の詩には、鳥の出てくるものがいくつもあり、“Emily Dickinson’s Bird Poems”と題して、一冊にまとめられたこんな本もあります。英語の原詩で味わう語学力はわたしにはないと知りながら、Kindle版をわたしも購入しました。

 

【Amazon Music オフィシャルサイト】
Amazon Music Prime
Amazon.co.jp: Amazon Music Unlimited

 

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