ソトブログ

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“Spark of Life”――Bird Songs in Apples #003(野鳥と音楽を愛する人のためのApple Musicプレイリスト)

 

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食べることはいつもわたしを裏切らない。

 1960年代、バックパッカーたちのバイブルとなったコリン・フレッチャーの『The New Complete Walker(遊歩大全)』を読み尽くした人など、今も昔もそれほどいはしないだろう。まさにバイブル並みの厚さの本には、ロングトレイルを歩く際の野外装備について、彼の個人的経験と嗜好と教訓と指南がびっしりと書き込まれている。全部読むのは困難にしても(バイブルなので)、なにかの拍子に読みたい項目だけ拾い読みをすると、彼の言葉がするすると頭に入ってくる。たとえば「トレール・スナック」のチョコレートのくだりはこうだ。「これは35%の脂肪を含んでいるので、セオリーでは激しい運動の最中とか直前に食べるには向いていないわけだが、テストしてみた結果では、場所あるいはコンディションにかかわらず、いつもべらぼうにおいしく感じることがわかった。だからいつも持ち歩き、いつも残さず食べてしまう。私だけではなく、ウォーカーすべてに向いていると思う」。


若菜晃子・編『Mürren』(Vol.11_2012 June)所収のエッセイ「ハーシー チョコバー」より。

 

 食べることはいつもわたしを裏切らない。目下、自分史上で成人してからもっとも痩せているわたしだが、食べることはいつだって好きだ。ばかみたいだけれど、そうだ。どんなにヒマでも忙しくても、愉しいときも暗いときも、(身も心も)健やかなるときも病めるときも、食べることがきらいになったことはない。そういう意味では、幸福な人生だとおもえる。
 読んだことはないがかの『遊歩大全』のコリン・フレッチャーも、食べることにかんしては、上記のくだりを読むかぎり、客観的に何かを評価したり、啓蒙したりしようという意思はかんじられない。ただただ、チョコレート、ハーシーが「べらぼうにおいし」いのだ。
 先日参加したジオパーク巡りのツアーでは、お昼のカレーが「べらぼうにおいし」かった。台風の迫るうねる波の打ち寄せる海岸に打ち上げられたウミガメの死躰を、トビがつついていた。トビにとってはそれはごちそうなのだろう。

 

 歩くには行動食が要る。行楽のあとには美味い飯を供する宴が必要だ。宴のあとには気怠さとメランコリーが残る。そこに足されるべきは、チルアウトなミュージック。インディーポップ/ロックもR&B、ネオソウルもジャズも、それが優れた音楽なら、わたしたちの野生、わたしたちのソウルだと思う。今回のプレイリストが、鳥と全然関係ないように見えても「野鳥と音楽を愛する人のための」音楽であるわけは、ドイツの名門ジャズレーベル、ECMのクールな野鳥フォトジャケットが並ぶからだけでなく、とある一日の宴のあとに、その日起こったことと起こらなかったこと、出逢った鳥と出逢わなかった鳥たちを想いうかべながら、わたしが選曲したからです。

 

プレイリスト「2022.07_Spark of Life」

※以下、選曲は全て、「演者/曲名」で表記しています。
※下記プレイリストのリンク、及び埋め込みリンクより、Apple Musicで聴くことができます(Apple Musicのメンバーシップが必要です)。

2022.07_Spark of Life」(選曲:ソト

M01. Clairo/Softly
M02. Andrey Dergatchev/Titles - Run
M03. Shanghai Shy Orchestra/さようなら、ギャングたち
M04. Joy Crookes/Wilid Jasmine
M05. Beabadoobee/10:36
M06. Luby Sparks/Tangerine
M07. Marcin Wasilewski Trio & Joakim Milder/Austin
M08. Keith Jarrett, Gary Peacock, Jack Dejohnette/Tonight(Live in Luzern/2009)
M09. Richard Spaven feat. Jordan Rakei/The Self
M10. HAIM/Summer Girl(Amber Mark Remix)
M11. Oh Wonder/Technicolour Beat
M12. フィッシュマンズ/夜の想い

Joy Crookes - Wild Jasmine (Live) | Vevo Studio Performance - YouTube:上記プレイリストではM04、ジョイ・クルックスの「Wild Jasmine」のライヴ・パフォーマンス(from Vevo Studio)。

 

 

 今回は遅れて水曜日となってしまいましたが、本連載「Bird Songs in Apples(野鳥と音楽を愛する人のためのApple Musicプレイリスト)」は、今後も毎週月曜更新予定です。次回もお楽しみに!

 

【以前の記事から:もう4年前ですが、リトルプレス「Mürren」と、書店「スロウな本屋」について書いたもの。】

読んだあとも、手許に置いておきたくなる小冊子「mürren」と、遠くてもいつか行きたい、と思える書店「スロウな本屋」のこと。 - ソトブログ

 

【Apple Music オフィシャルサイト】

 

【当ブログの「野鳥音楽プレイリスト」記事一覧はこちら。】