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Music for Slow Joggers(スロージョギングのための音楽プレイリスト)001――“Beyond Jogging : Blackbird Fly”

 

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Music-for-Slow-Joggers-001

走りながら、とりわけ「スロージョギング」をしながら聴きたい音楽を、プレイリストにして、シェアしていきます。

 

「息子と始めたバードウォッチング、野鳥観察は純粋に<趣味>と思えるんですけど――、わたしにとっては本を読むことや映画を観ることって、<趣味>だと思ったことはないんです。何か、仕事とも違う――かつては仕事にしたこともありますが、でも、お金になるならないじゃなくて。人生の核、自分をアイデンティファイするコアにあるものというか、自己を更新すること、いや更新しなくても、<自己を自己として維持することそのもの>という感覚というか――、」

 

 先日わたしはある人と話していて、こんなふうに行きつ戻りつして言い淀みながらそのとき既に、
本当は鳥を見ることも、「本を読むことや映画を観ること」に繋がっている。
 と感じ始めていました。

 

 そして今回から、これまでの毎週月曜の連載、「Birders' Songs(バーダーのための野鳥音楽プレイリスト)」に変わって、「Music for Slow Joggers(スロージョギングのための音楽プレイリスト)」というシリーズを始めます。――といっても、「Birders' Songs」が終わるわけではないということは、この文章を最後まで読んでいただけるとわかるようになっています(そのはず)。

 

「私のシーズンが台なしにした原初の歓びに駆け戻る気分だった。虹は、岸辺の花崗岩にあたって砕ける波のしぶきに消えていった。頭上ではカモメが鳴き、野生のヤギの群れが岬にシルエットを浮かびあがらせていた。ふたたび走りはじめると太陽が目に入り、ほとんど何も見えなくなった。ヒースの生い茂る泥炭や湿地と滑りやすい岩の見分けはほとんどつかなかったが、私の足は滑ることも疲れることもなく、新たな生命と自信にみなぎっていた。見えない力に引き寄せられ、私は無我夢中で疾走した。陽が沈み、森が燃え上がり、空がくすんだ煙に変わった。やがて疲れがやってきて、出血している足がもつれた。ヒースに覆われた土手を転がり落ちて地面に横たわる私は、幸福な疲労感に包まれていた」

マイク・スピーノ『ほんとうのランニング』(近藤隆文 訳、木星社、2021年)より、ロジャー・バニスターの著書『最初の4分間』First Four Minutesからの引用。

 

 この企画は、3月の初めにレビューした、マイク・スピーノ『ほんとうのランニング』を読んで、走ることを始めたわたしが、走りながら聴きたい音楽をプレイリストにコンパイルして、シェアしていこう、というものです。

 

 使用しているサーヴィスは、Amazon Music Prime。Apple MusicやSpotifyを使っている人にはごめんなさい。これは単に、わたしが課金している音楽サブスクがAmazon Music Primeだけ。であることによる制約なのですが、わたしのこの企画の主眼は、わたしのプレイリストを聴いてもらうことよりも、「自分に合うものを、自分で選ぶ」という体験の愉しさを味わっていただくことにあります。

 

 わたしは、「身体を鍛えたい場合、ジョギングは最も効率的なランニング形式ではない。」「ランニングのような美しさを秘めた表現が、芝生のフィールドに轍をつくるジョギングの流行に終わるのは見るに忍びない。」(どちらも前掲書より)という、マイク・スピーノさんの信念に反し、走り始めるにあたってジョギング、それも「にこにこペース」で走る「スロージョギング」を選びました。

 

わたしがスロージョギングの教科書にしているのは、本書『ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング』(田中宏暁、講談社ブルーバックス、2017年)です。

 

 その理由はおもにわたしの体力的なもので、「誰でも楽なペースで始められる方法」を望んだからです。「ランナーとして」の向上心は今のところなくて、体力維持を目的として始めたことですが、それもまた、わたしが<趣味>と考えていなかった、「本を読むことや映画を観ること」に繋がっている。もしかしたらわたしの感じていることは、わたし以外のすべての人にとっては当たり前のことなのでしょうか? 趣味とか趣味じゃないとか、そんなふうに峻別して捉えること自体がナンセンスなのか――、

 

Tundra-Swan 写真はコハクチョウ(2020.12、和歌山県白浜町)

 

 ――という、引用も含めてここまでに費やした1500字余りでわたしが言おうとしていることとは、

 

・「Music for Birders(探鳥家・野鳥愛好家)」を至上命題として、野鳥にまつわる曲をAmazon Music Primeをフィールド・ワークして探してきては、それらの曲を交えた、聴いて愉しい「インドア探鳥」と呼べるプレイリストを作成していく「Birders' Songs(バーダーのための野鳥音楽プレイリスト)」も、

スロージョギングのBGMとして聴きたい曲を集めて作る「Music for Slow Joggers(スロージョギングのための音楽プレイリスト)」も、

 

 わたしにとってはほとんど同義だということで、そんなことを言ってしまえば、神の存在証明の不可能性を根拠に、神の存在を証明しようとする中世の神学者みたいなものじゃん。というのは今書いていて思いついて、といってもそれはわたしが20年前に愛読した本の受け売りか勘違いみたいなもので、その本を開いて単行本で400ページあるなかからわたしの今欲しい文章をすぐに見つけたので、抜き書きしてみます。

 

 いなくなった神をただいないものとするのではなく空欄として残しつづけるように、生まれかわり自体はないのだとしても生まれかわりという概念が人間の歴史の中で長い時間持っていたそのリアリティは人間と世界との関係のなかに起源があるはずなのだから、関係それ自体がなくなっているわけではなくて、それに別の言葉をつけるのでなく空欄として残しつづけるということなのだが、具体性は物質をこえたものであっても物質を必要としないものではない。テルトゥリアヌスのあの「神の子は死んだということはありえないがゆえに疑いがない事実であり、葬られた後に復活したということは信じられないことであるがゆえに確実である」という言葉にしても、私には物質とまったく無縁のこととは思えない。

保坂和志『カンバセイション・ピース』(新潮社、2003年)より。

保坂和志『カンバセイション・ピース』は現在、河出文庫に収められています。

 

 こんなふうに無理筋で始まった連載、「Music for Slow Joggers(スロージョギングのための音楽プレイリスト)」は、今後も毎週月曜更新予定です。そしてこれはイコール、連載「Birders' Songs(バーダーのための野鳥音楽プレイリスト)」ということになります。これは詐欺でしょうか、いえ、先の引用の通り、「神の子は死んだということはありえないがゆえに疑いがない事実であり(以下略)」なのですから。ではまた、次回!

 

プレイリスト「2022.03_Beyond Jogging : Blackbird Fly」

※以下、選曲は全て、「演者/曲名」で表記しています。
※プレイリストのリンクをクリックすると、Amazonプライム会員の方は、Amazon Musicで聴くことができます。

2022.03_Beyond Jogging : Blackbird Fly」(選曲:ソト

M01. The Head And The Heart/Springtime
M02. ハンバート ハンバート/おなじ話 feat.キセル
M03. The Head And The Heart/Homecoming Heroes
M04. Kacey Musgraves/Wonder Woman
M05. The Beatles/Blackbird (2009 Digital Remaster)
M06. Tom Waits/San Diego Serenade
M07. 忌野清志郎/サイクリング・ブルース
M08. Iron & Wine/Flightless Bird, American Mouth
M09. Bon Iver/The Wolves (Act I and II)
M10. 曽我部恵一/春の嵐
M11. Wilco/Jesus, Etc.
M12. Kodaline/One Day
M13. フィッシュマンズ/Future[from "Chappie, Don't Cry"] (Remastered)

おなじ話 - ハンバート ハンバート - YouTube(Humbert Humbert Official YouTube Channelより)

 

【Amazon Music オフィシャルサイト】
Amazon Music Prime
Amazon.co.jp: Amazon Music Unlimited

 

【以前の記事から】

ブックレビュー“読む探鳥”:マイク・スピーノ『ほんとうのランニング』――読んで鳥に出逢い、走れば傍に鳥たちが。 - ソトブログ

 

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