ソトブログ

文化系バーダー・ブログ。映画と本、野鳥/自然観察。時々ガジェット。

ソトブログ

“西瓜糖の日々”――Bird Songs in Apples #002(野鳥と音楽を愛する人のためのApple Musicプレイリスト)

 

この記事をシェアする

「小説ってこんなに自由なんだ!?」

 雄鶏たちが時をつくる。嘴のトランペットの音が大きく鳴り響き、遥かまで伝わる。日の出のほんの少しまえ、わたしはアイデスに到着した。
 アイデスの向い側のどこかの農家から逃げてきた二羽の白い鶏が地面をつついていた。わたしを見ると、飛んで行ってしまった。逃げ出してまだ間がないのだな。翼が、本物の鳥たちのように動かないので、そうとわかる。


リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』(藤本和子訳、河出文庫/原著:“In Watermelon Sugar”(1968)

 

 リチャード・ブローティガンという作家、その作品にいつ出会ったのか? わたしは小説を、というより本そのものを、意識して読み始めたのが大学受験を控えた18歳の頃と比較的遅くて、時の頃は1990年代の後半だった、最初に天地がひっくり返るほどの衝撃を受けたのは大学1回生のときに読んだ高橋源一郎『さようなら、ギャングたちだった、その作品が、東大紛争のために1969年の東大入試を受けられなかった、すなわち全共闘直撃世代の著者の、実体験のメタファーとしても読めるというような、読みの技量は当時のわたしにはなかったけれど、今思えばそれでよかった。
小説ってこんなに自由なんだ!」(何しろ大島弓子のマンガがそのまま見開きで引用されているくらいだ)
 ――そう思えたことがとにかく嬉しかった。

 

 それでリチャード・ブローティガンだけれど、高橋源一郎に『ロンメル進軍』(思潮社、1991年)という、“Rommel Drives on Deep in Egypt”(1970)の翻訳があって土橋とし子さんの愉しいイラストが挟み込まれた素敵な本(「トントン大相撲セット」なんてページがある!)だけれど、たぶんこれを最初に読んだはずはなくて、当時新古書店でよく見かけた新潮文庫版の『愛のゆくえ“The Abortion: An Historical Romance 1966”(1971)か、彼のいちばんの代表作『アメリカの鱒釣り“Trout Fishing in America”(1967)だと思う。

 

Amazon.co.jpにおけるリチャード・ブローティガン検索結果

 

 90年代の後半というと今リトルプレスがブームなのと同じかそれ以上のムーブメントとして、フリーペーパーの文化があった。それこそタワーレコードの『bounce』のようなメジャーな資本のものから、個人でコピー用紙で刷ったものまで、レコード屋にも雑貨店にもインテリアショップにも古着屋にもミニシアターにも、DJイベントのフライヤーと、様々なジャンルのフリーペーパーが必ずといっていいほど置かれていた。大学生だったわたしも作って大阪ミナミ・アメリカ村で配りまくっていたし(ついでにDJイベントもやっていた)、人が作っていたものにも寄稿していた。そんな百花繚乱だったレイト90sのフリーペーパーの山々の、どこかでみかけた1誌で、

 

突然、ブローティガン。

 

 と題された特集を目にしたのが、「ブローティガン」という字面を目にした最初だった――。ペーパーの名前は思い出せない。そして現在、(公財)日本野鳥の会のいち会員として、バーダーの端くれとして、改めてリチャード・ブローティガンを、なかでも大好きな一冊、『西瓜糖の日々』を開いてみて目に飛び込んで来たのが、今書いているこの文章の冒頭に置いた、引用箇所です。

 

 あまり鳥、野鳥とばかり言い過ぎると狂信的に見えて、興味のない人は引いてしまうよ。という趣旨のことを友人が言ってくれた。確かにその通りだと思います。しかし結局、わたしのこれまでの40余年の人生のなかで最も大切に思ってきた作家のひとり、ブローティガンにも鳥をみつけてしまいました(野鳥ではありませんが、意外と重要な記述ではないでしょうか)。


 前回からApple Musicにサブスクを乗り換えて、選曲しているこの<野鳥音楽プレイリスト>連載ですが、リチャード・ブローティガンにはなんと、こっちのアップル(Apple Inc.)じゃなくてビートルズの設立したアップル、アップル・コア(Apple Corps Ltd.)で企画された自作朗読レコード*1、というものがあります。その名も『Listening to Richard Brautigan』。それと今回選曲した、ハリー・スタイルズの「Watermelon Sugar」は全然関係ないのですが、ワン・ダイレクションのメンバーだった英国人は、リチャード・ブローティガンを意識しているのかいないのか。

 

Listening to Richard Brautigan

Listening to Richard Brautigan

Amazon

『Listening to Richard Brautigan』。Zappleはジョン&ヨーコ、ジョージ・ハリスンの実験的作品2枚をリリースしたのみで頓挫し、本作は他レーベルから発売されたようです。わたしが2009年ごろに購入した上記のCDも既に廃盤。

 

 といいつつ、鳥とはあまり関係のないことをとりとめなく書いてしまいましたが、今回のプレイリストは、キジバトの鳴き声がフィーチャーされた入江陽「はとバス(201810)」や、あまりにも有名な水鳥を二つ名に持つSSW、悲しみかもめさんの「さいごのやさしさ」など、またしても私的に最高なBird Songsを織り交ぜたプレイとなっております。ここまで読んでくださった方々には申し訳ないのですが、こんな駄文を読むよりも、とにかく音楽をお楽しみ下さい。

 

プレイリスト「2022.06_In Watermelon Sugar」

※以下、選曲は全て、「演者/曲名」で表記しています。
※下記プレイリストのリンクより、Apple Musicで聴くことができます(Apple Musicのメンバーシップが必要です)。

2022.06_In Watermelon Sugar」(選曲:ソト

M01. KODAMA AND THE DUB STATION BAND/Be My Baby
M02. Victor Wooten/Norwegian Wood
M03. BLACK PINK & Selena Gomez/Ice Cream
M04. 入江陽/はとバス(201810)
M05. 鈴木真海子/Lazy river
M06. chelmico/Balloon
M07. chelmico/Fishing(interlude)
M08. 悲しみかもめ/さいごのやさしさ(feat. SiMoN)
M09. フィッシュマンズ/忘れちゃうひととき(Live at 新宿リキッドルーム/1996)
M10. Scary Pockets/Seven Nation Army(feat. Elise Trouw)
M11. Harry Styles/Watermelon Sugar
M12. Sabrina Claudio/Unravel Me

入江陽 - はとバス(201810) Yo Irie - HATO BUS - YouTube:オフィシャル・リリック・ビデオ。

 

Seven Nation Army | The White Stripes | funk cover ft. Elise Trouw - YouTube:ごめんなさい、本曲は全く鳥と関係ないのですが、今回のプレイリストのなかでとりわけ好きな楽曲、Scary Pockets feat. Elise TrouwによるWhite Stripesのカヴァー、「Seven Nation Army」のオフィシャル・ビデオ。

 

 本連載「Bird Songs in Apples(野鳥と音楽を愛する人のためのApple Musicプレイリスト)」は、今後も毎週月曜更新予定です。次回もお楽しみに!

 

【Apple Music オフィシャルサイト】

 

【当ブログの「野鳥音楽プレイリスト」記事一覧はこちら。】

*1:※Appleレコードの実験音楽部門、Zappleレーベルの1枚として。