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詩 #003―― 「義父が庭木に半分に切って挿したミカンに」

 

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Poems-003

「義父が庭木に半分に切って挿したミカンに」

作:津森ソト

 

 義父が庭木に半分に切って挿したミカンに、今年もメジロが来ている。冬だなあ、と思う。今年、初めて気づいたこともある。家と外との境界として並べて植えられるその庭木を、ぼくはすぐに名前を忘れてしまう。その木と、庭のもっと内側にある、うちの庭でいちばん背の高い、モッコクとのあいだを何度もなんども、メジロは行き来している。一日じゅうずっと。言い忘れてたけど、メジロはつがいだ。メジロたちだ。毎日同じふたりが来ている。個体識別がぼくにできるのではなくて、くちばしの下の胸のあたりの羽毛が、オレンジのネクタイか前掛けをしているみたいに、色がついている。モッコクと○○を一日じゅう往復していることを、ぼくは初めて知ったのだ。メジロたちはうちに、ミカンを食べに来ているんだけど、ミカンを食べに来ているだけではないらしい。モッコクの枝のなか――枝の「うえ」と言いたいところだけど、モッコクのなかをしじゅう動き回っているので、枝の「なか」。枝のなかを飛びまわり、何かつついている。ぼくには見えない虫でもいるんだろうか。野鳥の会の会員なのに、ぼくはそんなことも知らない。ぼくは前のぼくの詩で、メジロの鳴き声を、改めて図鑑で調べて書き直した。そんなことはしなくてもよくて、ぼくに聞こえたとおりに書けばよいのだった。庭木の○○は「カナメ」だった、あの子の名前と同じだった。今妻に訊いた。それに「家と外との境界として並べて植えられる庭木」は、生け垣だ。そんなことも忘れていた。

 

わたしの尊敬するミュージシャン、詩人である友部正人さんに、「妻に」という詩がある。普通の文章、普通の散文なのに、そのまま詩であるような詩。友部さんの詩にはそんなのがいくつもある。友部さんの足許にも及ぶまいけれど、そんな詩が書きたいと思っています。

 

【これまでに書いた詩の一覧はこちら。】

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