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ブックレビュー“読む探鳥”:友部正人『バス停に立ち宇宙船を待つ』――「ここには虫や鳥や果物や草と/人間とを遮るものがない」

 

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友部正人『バス停に立ち宇宙船を待つ』(ナナロク社、2015年3月刊)(ナナロク社公式サイト・本書紹介ページ

自宅の電線の上のイソヒヨドリ。

イソヒヨドリ(2022.3撮影、漁港にて)

 自宅に同居している――というより娘ムコであるわたしが住んでいるのが妻の実家で、だから一緒に住んでいる義父が、わたしたちの増築した“第2リビング”の吐き出し窓の外に、縁側代わりにテーブルを拵えてくれたのはもう何年前だったか、そこに腰かけて次男(7歳)とシャボン玉に興じていると、わたしたちの頭上、自宅から電柱へ延びる電線の上で、イソヒヨドリがさえずっています。
 そこは彼のソングポストなのでしょう、わたしにはイソヒヨドリの複雑で、「個人差」の大きいさえずりはいつも、不規則に聞こえて聞きなすことができません。
 ベビーブーマーであるわたしの父とも義父ともほとんど同世代の、1950年生まれのフォークシンガー、今ふうにいうとSSWの友部正人さんによる、2015年の詩集『バス停に立ち宇宙船を待つ』に収められた全35篇のうちに、鳥の出てくる詩が2篇あります、そのひとつ、「ウォーカー・バレー」という詩がわたしは好きです、詩をワン・フレーズだけ引用しても意味がありません、だからわたしは「ウォーカー・バレー」を半分くらい、ここに書き写します。

 

  マンハッタンでお金持ちになった人たちが
  退職してここで馬を飼う
  サイクリング用の自転車をこぎながら
  友だちはぼくにそう言った
  ニューヨーク州は本当に木の多いところ
  列車はニューヨークに近づいているようだ

 

  髪を紫に染めた娘を
  父親が駅に見送りに来ていた
  そのときは子供っぽく見えた娘が
  列車の揺れですっかり大人になった
  リュックの口からぬいぐるみの耳がまだはみ出している
  列車はニューヨークに近づいているようだ

 

  ここには虫や鳥や果物や草と
  人間とを遮るものがない
  木立の中に家があり
  屋根には尾根に続く道がある
  あの雲製造機のような夏の空


友部正人『バス停に立ち宇宙船を待つ』所収「ウォーカー・バレー」より

 

彼らがわたしたちの隣人であることを、いつも思い出させてくれる。

 

ここには虫や鳥や果物や草と/人間とを遮るものがない>――ここがやっぱり重要です、バーダー(野鳥愛好家)の皆さんならお気づきになるでしょう。
 ほんとうの詩は、文学は、未来を予言するというより、常に「現在」より先んじているものです。この戦時下の世の中で、ほんとうはわたしたちと彼らとを、わたしたちどうしを、遮り、隔てるものは何もないはずです。朝鮮半島の北緯38度線付近(非戦闘地域)には、夏を過ごすタンチョウヅルがたくさんいるらしい*1、Blue Rock Thrush=イソヒヨドリは磯ではなく岩が好きな小鳥でだから、コンクリートの街が好きになって、街にも住むようになったそうですね(下記Canon公式YouTubeチャンネルでの、日本野鳥の会理事・安西英明先生の解説参照)。わたしはいつまでも覚えられない、イソヒヨドリのさえずりが大好きです。彼らがわたしたちの隣人であることを、いつも思い出させてくれるイソヒヨドリ。

 


【解説:日本野鳥の会】動画で野鳥観察~イソヒヨドリの生態~(Canon Official) - YouTube

 

 

【以前の記事から:わたしたちの思い出とともにある身近な鳥たち。】

ブックレビュー“読む探鳥”:保坂和志『ハレルヤ』――「低く飛ぶツバメの鳴き交す声が忘れられない」 - ソトブログ

 

【野鳥に関する本、映画等についてのレビューを、シリーズ「読む探鳥、観るバードウオッチング」としてカテゴリーにまとめました。】

 

【当ブログの読書および野鳥観察についての記事一覧はこちら。】

*1:※奥野卓司『鳥と人間の文化誌』(筑摩書房、2019年)より