環境省レッドリスト掲載種<ウチヤマセンニュウ>を観ました。――孔島・鈴島の探鳥会にて
環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠB類の希少種、ウチヤマセンニュウ。でもその前に――、
5月27日、いつものように小学生の長男と二人で自然観察会に出かけました。
今回のターゲット、ではなくて観察対象は、野鳥の<ウチヤマセンニュウ>。環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠB類の希少種で、冬は中国(中華人民共和国)南部などで越冬し、日本では繁殖期である夏場、伊豆諸島や紀伊半島、九州などの限られた島嶼にのみ飛来するという珍しい鳥です。
――ということは私は、環境省と日本野鳥の会和歌山県支部主催の今回のイベントに参加するまで全然知らなくて、写真を見る限りぱっと見はウグイスのような、地味めのたたずまいのウチヤマセンニュウ。しかしながら昨年から長男とともに(気軽に)始めた野鳥観察のなかで、そんな珍しい鳥を見る機会はなかなかないので、ふたりともワクワクしながら、朝6時に起床。2時間車を走らせて、参加してきました。
場所は和歌山県新宮市、孔島(くしま)、鈴島。市内の三輪崎漁港のそばにある小さなふたつの無人島です。本州最南端に近いこの場所だけあって、ハマユウ、ノアサガオといった暖地性の海浜植物の宝庫だと言われています。
9時前に漁港近くに集合。この会はウチヤマセンニュウの生息数調査も兼ねているとのことで、日本野鳥の会和歌山県支部のヴェテランバーダーの方たちが沢山いらっしゃっていました。色々と教わるつもりで付いていきます。まずは歩いてすぐそばの鈴島へ。
島というより岩山に木々が生えた程度、といった感じの<鈴島>。
こちらは本当に奥行き10数メートル?くらいのほんの小さな島ですが、足許の蟹などを眺めていると、チュピチュピチュピ。すぐに鳴き声が聞こえてきます。「これ、そうですよ」。――絶滅危惧種とあって、こんなに簡単にいるものだとは思っていませんでしたが、ちょうど岩の向こう側のようで、姿は見えません。それでもまた、孔島にもたくさんいるだろうということで、堤防で繋がった孔島へ向かって歩いていきます。
しかし自然観察教室というといつもそうなのですが、こういうときに、ただ目的地まで、目標物まで一直線!とならないのが面白いところ。いつも参加しているふるさと自然公園センターの観察会でもお世話になった、野鳥の会のTさんが、「ほら、見て。ずうっと水辺線が続いていて、地球が丸いのがわかるわねぇ」と言えば、別の方がずっと沖合を眺めて、「<オオミズナギドリ>がいますよ。ほら、あの船のあたり」。
うまく見つけられないので、言われたあたりになんとかズームして、とりあえずシャッターを押したもの。小さく写っているミズナギドリ類(後述の通り、オオミズナギドリとは特定できない、ということで)の群れ。
ビギナーの私には、肉眼では全然分かりません。かすかに何か飛んでいるように見えるあたりに、以前このブログでも紹介したフィールドスコープや、今回新調した双眼鏡を向けて、息子とふたりで交互に覗き込みます。なかなかうまく視界に収められないでいると、ここでも優しい先輩方。こうした探鳥会ではいつも、達人のバーダーの皆さんが、三脚に設置した自らのフィールドスコープの視界に鳥たちを捉えて、見せて下さいます。それでもかなり遠くなので、なんとなくしか分かりません。ヴェテランの皆さん方凄い!
孔島でウチヤマセンニュウを発見! なんとか証拠写真に収めました。
なんて感心しながら、孔島へ到着。孔島には言われていたとおり、ノアサガオなどが咲いていて南国の雰囲気漂う自然豊かな島です。――期待しつつ耳を澄ませていると、聞こえてきました。
咄嗟であまり録音がいいとは言えませんが、よく通る囀り(song)です。
ウチヤマセンニュウの囀りです。聞こえてくる林の方に一斉に目を向け、各々カメラや望遠鏡を持って構えます。私も探しつつ、今回、初めてスマホで録音してみたのが上のファイルです。そして待っていると、出てきました。囀りつつ、枝と枝へと飛び移り、ちょうど見やすい、木の真上に止まったところを息子は双眼鏡、私はカメラを向けましたが、私のカメラのピントがなかなか合わない! ズームがうまくいかず、なんとか画角内に収めたのが、実は今回のアイキャッチにも使っている下の写真。どこに写っているか分かりますか?
上の写真の画面右中央あたり、写っているところを切り取ってみました。惜しくも向こうを向いています。ウチヤマセンニュウのはっきりした姿を知りたい方は、他サイトを確認して下さい。スミマセン。 例:♪鳥くん野鳥図鑑◇ウチヤマセンニュウ
ちょっと顔が向こうを向いちゃっていますね。「証拠写真」はこれだけですが、息子は持参の双眼鏡――今回新調した「ペンタックス Papilio II 6.5x21」。実売1万円前後と比較的手に取りやすいモデルながら、最短焦点距離0.5mで、「近くを見れる」双眼鏡として唯一無二のモデルで、今回、あるヴェテランの方にも「お、パピリオ持ってるやん」と一目置いて頂きました。また機会があれば紹介してみたいと思います――でしっかり目視できたようで、満足していました。
そのあとも何度かウチヤマセンニュウの姿を見ることができましたし、それ以外にも、樹上で鳴くカワラヒワや、砂利浜の上でおそらく卵を暖めているコチドリを、少し遠くからみんなで見守ったりして、当日の陽気と同じ、愉しく暖かい雰囲気の自然観察会、探鳥会でした。
そして「鳥合わせ」。バーダーたちの探鳥会では、終了時、当日観察することのできた鳥の種類を挙げて、確認し合います。ここでスズメやカラスのような、ごく普通の鳥たちもちゃんと数えるところがいいな、と思います。今回見られたのは以下の18種。また、ウチヤマセンニュウは計6箇所で囀りを確認。少なくとも6つがいは、繁殖に来ているということが確認できました。
トビ/ハシボソガラス/ツバメ/カワラヒワ/ウチヤマセンニュウ/スズメ/ササゴイ/イソヒヨドリ/キジバト/アマツバメ/クロサギ/ムクドリ/コチドリ/チュウシャクシギ/キアシシギ/カワウ/キョウジョシギ/ミズナギドリsp.※
※オオミズナギドリといっていたのは、やはり種が特定できないということで、ミズナギドリ「sp.」(ミズナギドリ「類」)だということ。
今後とも大先輩たちに教わりながら、息子とともに鳥見を愉しみたいと思います。3歳になった下の子も続いてくれるといいな。
その他、鈴島、孔島の自然グラフ。
そこかしこに咲くノアサガオ。
樹上で鳴くカワラヒワ。
卵を暖めているらしいコチドリ。実はけっこう遠くて(数十メートル先)、砂利に紛れているのにどなたかが見つけて下さるのです。探鳥家凄い!とここでも。
こんなのもいました。先日の鳥の巣半島にもいらっしゃっていた、トンボ博士のM先生が見せてくれたオジロアシナガゾウムシ。
見渡す限りの水平線。孔島・鈴島、またゆっくり来てみたいと思います。
6倍と通常鳥見で使う8倍より倍率は少し低めですが、「近く」を見れる唯一無二の双眼鏡。目の前の花や虫などを見ると、本当に小人気分が味わえます。「自然観察の最強アイテムを手に入れた!」と親子で歓んでいます。こちらは、また改めて紹介してみたいと思っています。
【気軽に始められる鳥見ですが、少しずつ道具を揃えていくのも愉しいです。】
見つけたモノはどんどん撮影、記録。“自然観察登山”はこんなに愉しい。――和歌山田辺・龍神山にて【後編】
龍神山で出逢ったルリシジミ(2018.5.20)
和歌山県田辺市の(身近な)霊峰、龍神山で“自然観察”登山。
行楽日和、登山日和に恵まれた5月20日。自然観察教室として小学生の息子とともに参加した地元、和歌山県田辺市の龍神山(標高496m)への登山イベント。前回に引き続いて今回は、その道中で出逢った生きものたち、植物たちを紹介していきたいと思います。
かの南方熊楠の著作にもその記述のある龍神山は、田辺市の市街地から近い田辺市上秋津にあります。当日は、自然観察教室の主催である、ひき岩群国民休養地「ふるさと自然公園センター」から、車で乗り合わせて約10分ほど、農道を登った先にある登山口から出発しました。
龍神山登山は自然観察会でも人気のイベントのひとつで、家族連れから年配の方まで、30人程が参加していました。(登山口にて集合の様子)
当日は30人ほどの参加者があり、子どもたちからお年寄りまで、にぎやかな雰囲気。山頂付近までは約1時間の道のり。比較的整備された登りやすい山道で、前回の記事で書いたとおり、ここから道みちで、それぞれ動植物の専門を持った先生方が目に付いたモノを解説して下さったり、こちらから質問したりして歩いて行くのが、自然観察会のいちばんの醍醐味。先生たちとも顔なじみの長男は、いつも先生のそばにくっついて歩いて行きます。
野帳に、「見つけたモノ」の名前を訊いて、どんどん書いていく。
野帳(観察ノート)に用いたのは、リヒトラブ「クリップファイル」とマルマン「クロッキーリーフ」。
前回も紹介したとおり、当日私は野帳(観察ノート)として携行した、リヒトラブ「クリップファイル」(A5)に挟んだメモ用紙にカリカリとメモを取りながら、歩いて行きました。長男にもコクヨ測量野帳を持たせていましたが、だいたいいつも自然観察会では私がメモ役。「父ちゃんはアナタの助手じゃないよ。」と言いつつも、今回ばかりは登山行で、弁当・お茶など自分の荷物は自分のリュックに担いで歩く息子の姿を目にし、大目に見てやることにしました。――というより、実は私自身、この作業が、自然観察で一番愉しいことのひとつなのです。
実際にどういうふうにメモしているかというと、こんな感じ。
写真ではわかりにくいですね。全文を書き写してみます。
・野帳(観察ノート)から
5/20 竜神山を歩こう 竜神山(496m)
テングチョウ/イシガケチョウ/モンキアゲハ/ササユリ/タツナミソウ
タチシノブ(carrot fern)/オオバヤシャブシ/タチツボスミレ/ウラジロ/ワラビ/コシダ/カラスザンショウ/ウツギ/ウラジロイチゴ/ネズ/ウバメガシ/アカマツ/カンコノキ/(オーソコーツァイト)※石英の粒子からなる砂岩/コジイ/ネジキ/カクレミノ/タイミンタチバナ/ヒサカキ(ビシャコ)/ヤマモモ/シマアメンボ/16℃(池の水温)/シシガシラ/クサギ/シハイスミレ/ルリシジミ/カマドウマ/アサマリンドウ/ザトウムシ/モチツツジ/ガンピ/シャシャンボ/ヒカゲツツジ/ナナカマド/スノキ(ツツジの仲間)/サカキ/ガクウツギ/テンナンショウ/ムロウマムシグサ/フタリシズカ/ナベワリ/コメツキムシ/カキノハグサ/オオセンチコガネ×→ルリセンチコガネ/クロスジヘビトンボ(幼虫)/イワヒバ/トカゲ/ベニシダ/イズセンリョウ/バアソブに似たの・ツルニンジン/シシガシラ/トキワツユクサ/ソヨゴ/アケビ/オオイタチシダ/マメヅタ/テンの糞
計3ページ。――そう、私の場合、ただ見たモノの名前を書いていくだけ。もちろん(というと格好悪いですが)私が自分で判別できたり知っているモノはほとんどなく、その場で先生が教えてくれたものを書いていきます。時には図鑑を見て、これまでの自然観察会で見かけてその名を覚えている息子から、「あ、ウラジロ。」「タイミンタチバナ。」「こっちはシャシャンボ。」「フタリシズカや。父ちゃん、書いといて」と指示が飛んできます(「“書いといて”やないやろー」と周囲からツッコミを受けながら)。
参加者の方のなかにはハンディカムで動画に収めながら、その場で訊いた名前を声で吹き込んでいる方もいて、やり方はそれぞれだと思いますが、私の場合、書いたメモと写真を見比べながら、息子と話しながら思い出しつつ、あるいはこのブログを書くために見返しつつ、図鑑を見たりウェブを検索したりして確認していく作業によって、少しずつ生きものや植物の名前や特徴を覚えていくようにしています。
「覚えること」それ自体が目的じゃないのだから。
中間点にある池に注ぐ水路の水温を測っているところ。
観察会のその場では、その生きもの、植物についてより詳しい解説をして下さることもあって、それ自体が非常に面白いのですが、なかなか全部メモに取ることはできません。でも、それでいいんだと思っています。その場限りで忘れてしまったようでも、あとで写真を見返してみたり、こうして文章にまとめていて思い出すこともありますし、どうせ全部は覚えられません。何より、「覚えること」それ自体が目的ではありません。
――とはいえ育ち盛りの息子などは見たこと訊いたこと、読んだことを非常に良く覚えていて、親バカとしては、「すわ神童か!」と期待したり、先生方も驚いてくれたり褒めて頂いたりしていますが、息子が神童かどうかはともかく、こういうふうに自分の中に知識として蓄積していく愉しさこそ、学ぶことの面白さの本質のひとつかも知れません。特定のディシプリン(専門分野)を深く追求して研究したり、真剣に取り組むことをあまりして来なかった私でも、例えば文学や映画、音楽、美術に触れるときでさえそういうことは実感としてあるものですし、子どもたちにもその愉しさを、今から存分に味わって欲しいと思います。
そんなわけでここから、龍神山の生きもの&植物たちを、写真とともにランダムに紹介します。今の私には、これらの生物、植物の相関について深い知識はありませんが、時が経って見返してみて自分に理解できたら愉しいですし、あるいはもう少し大人になった息子たちがいつかこれを読み返して、龍神山の生態系について理解し、私に解説してくれる日のことを、ちょっと期待しつつ。
龍神山の生きもの&植生グラフ。
ネジキの花。名前の由来は、幹が捻れることから。
アナグマの巣穴らしい。
カラスザンショウ(新芽)。サンショウ同様の特有の香り。
アリジゴクを捕まえた!
幾何学的な拡がりを見せる、ウラジロの群生。「現代アートのようやね」とある先生。
フタリシズカ(左)の小さな白い花と、カキノハグサの黄色い花が並んでいました。カキノハグサはレッドデータに記載されている県もあるなど希少種のようですが、山頂付近でいくつか見られました。
こちらも参加者の子どもが捕まえた、ルリセンチコガネ(オオセンチコガネ)。所謂「糞虫」(ふんちゅう、と読む。フンコロガシの仲間)。日本の糞虫はフンをコロがさないらしいが、『ファーブル昆虫記』を愛読中の息子は先生方と糞虫談義に興じていました。
神社や梅林など、いつも色々な所で見かけては、手のひらに取り、指の間で折り曲げてプチプチと鳴らして遊んでいた丸い草は、マメヅタというシダの仲間でした。
テンのものらしい、動物の糞。こうした痕跡で同定ができるようになると、自然観察はもっと愉しいですね(危険予知にもなりそう)。
糞で記事を終わっても何なので。モチツツジの淡い綺麗な花が、そこかしこに咲いていました。
「次に来るときはもっと詳しくなって…」なんて頑張ってみるのも愉しいです。でも疲れた!
【過去記事より。自然観察に最適な植物図鑑、2冊を紹介しています。】
自然観察教室で低山登山。眼前に拡がる自然に目を凝らしながら歩く、自然観察で役立ったアイテムを紹介します。――和歌山田辺・龍神山にて【前編】
先日、よく晴れた5月20日の日曜日。当ブログで何度も紹介している和歌山県田辺市、ひき岩群国民休養地「ふるさと自然公園センター」 の自然観察教室で、地元の霊峰として知られるその名も「龍神山」(りゅうじんやま、ではなく「りゅうぜんさん」と読む)への登山に行ってきました。龍神山は496mの低山で、比較的ビギナーにも登りやすい山だということで、小学生を中心に参加するセンターの自然観察教室でも、毎年1、2回、こちらへの登山が企画されているのですが、私も長男とともに、彼が小学校1年生だった2年前から毎回、参加しています。
とはいえ元来全くのインドア派で、登山はおろかアウトドア初心者だった私は、これまで服装や自然観察の最低限の荷物だけで、安全面も含めたちゃんとした装備を考えていませんでした。自然観察教室に繰り返し通うようになって、息子もだんだんと自然に対する知識をつけて来るのに伴って、やっぱり親であり、大人である私自身も、折角の機会。責任と自覚を持って、しかし愉しく自然を満喫できるように、正しい知識を身に付けたいもの。特に今回は低山といっても常に危険がつきものの登山であって、熟練した先輩たちや先生方がいてくれるお陰で安心して頼っている部分もありますが、自分で学んでこそ「自然観察教室」だと思いながら、少しずつ意識して取り組むようにしています。
「自然観察教室」ですから主催者から案内とともに、当日のルートの書かれた地図も配られますが、今回、自分でも当地の地形図を用意して、コンパス片手に確認してみたりしました。まだまだ地図の読み方もままならないですが、少しずつ学んでいきたいと思っています。
というわけで今回は、子どもに事前に慣らした上で登山靴を履かせてみたり、地図やコンパスを自分で用意してコースを確認してみたり、山頂で食べるその日の昼食だけでなく、非常食や行動食を用意して望んでみました。本来ならそうした準備・装備についてもここで触れてみたいのですが、生半可な知識で書いてしまって、(影響力なんて全くない小さなちいさなブログとはいえ)間違った情報を流してしまっては元も子もありません。
ここではそんな準備とは別に、龍神山の山歩きで行った<自然観察>で役立った、筆記用具を中心とした道具たちについて、触れてみたいと思います。
野帳(観察ノート)は書きやすさと取り回しのしやすさを両立したものを。
観察ノートはいつものコクヨ測量野帳ではなく、リヒトラブの「クリップファイル」(A5サイズ)にマルマン「クロッキーリーフ」を挟んで持ち歩いてみました。
「クリップファイル」は見開いた右側にメモ用紙やルーズリーフをクリップして書き込むことができ、左側はクリアポケットになっていて、ちょっとした資料を挟んでおくことができます。野外での機動性、という意味では新書サイズ、コンパクトな測量野帳に劣りますが、今回、地図をポケットに挟み込めることと、いつもの午前中いっぱいで終わる自然観察教室と違い、登山では昼食を挟んだ長時間となるため、道みちで取るメモも多くなるだろうと思い、測量野帳より筆記面の大きなA5サイズであることから、この「クリップファイル」を選んだというわけ。
結果、「クリップファイル」は非常に薄く取り回しやすいのに、しっかりと用紙をクリップして強度もあり、書きやすいメモボードでした。「クロッキーリーフ」はラフなイラストを描くのに適しているということで、野外スケッチなども描いてみたかったのですが、今回は観察メモ(というより見たものの名前)を書くので精一杯。しかしながら、柔らかな風合いのクリーム色の用紙はボールペンも鉛筆も走らせやすく、不安定な場所で立ったままで書くというシチュエーションでも書きやすいものでした。
クリップファイルは、360度折り返せて筆記しやすく、上部のクリップ部分も最低限のサイズなので、筆記面を十分に取れるのも魅力です。
屋外での筆記具(ボールペンと鉛筆)は、どんな体勢、状況でも書けるものを。
筆記具はボールペンと鉛筆を1本ずつ。
ボールペンは以前当ブログでも「使ってみたい」と触れていた三菱鉛筆の<加圧式>ボールペン、「パワータンク」。上向きでも濡れた紙でも氷点下でも書ける、という加圧式ボールペンの特性は、野外でのフィールドワークに最も適したボールペンではないでしょうか。実際に前述したようなシチュエーションになることはありませんでしたが、左利きの私にとってもかすれたりすることのないパワータンク。書き味はいたって普通というか、かなりオールドスクールな趣きで、現在主流の低粘度油性ボールペンや、ゲルインクに慣れた手にはかえって若干の違和感もありますが、「書けないということ」がほぼない、という安心感は、何ものにも代え難いのもまた、事実。
鉛筆はこちらも以前記事を書いた、デザインフィルのブラスペンシル。野外ということで、クリップのついたキャップに収納できるごくコンパクトな鉛筆として、こちらも重宝しました。鉛筆ということで、こちらは折れさえしなければ書ける、書けなくなることはないのですから、ボールペンとともに、こういうシチュエーションで持っていて損はないと思います。――というか、万が一のことを考えれば、鉛筆削りも持っていた方が良かったかも、と思いました(それか、やはりナイフかな)。
- 左利きの左利きによる左利きのためのボールペン選び。【後編】feat.“雨の日は会えない、晴れた日は君を想う” - ソトブログ
-
年末最後に寄った文具店で買ったデザインフィルの「ブラス ペンシル」。<書くことが愉しくなる>真鍮製ホルダーの鉛筆を2018年は普段使いに。 - ソトブログ
今回、背中のリュックとは別に、上記の筆記用具やLEDのハンディライト、コンパス、スマホ等を入れて持ち歩くのに使っていたのは、上記写真右の自転車柄が目立つ京都の和装ブランド、SOU・SOUとle coq sportif(ル・コック スポルティフ)のコラボグッズであるサコッシュ。現在はこのナイロン地のサコッシュは販売終了していて、麻帆布のものになっています(下記リンク)。より本格的な登山なら、もっとふさわしい装備があるかもしれませんが、自然観察でノート等を持ち歩く際、これくらいのサイズで、コンパクトで嵩張らないショルダーバッグとして使えるサコッシュは、非常に重宝します。
次回は龍神山登山後編。実際に登山で出合った生き物、植物たちを紹介したいと思います。
【後編はこちらです。】
【以前の記事から:子どもとの自然観察、とりわけ野鳥観察で持ち歩いているカバンの中身について。】
ため池の周囲に多様な生態系が広がる「鳥の巣半島」で、植生調査(自然観察会)に参加しました。
当「ソトブログ」、始めるきっかけとなったのは今も愛用しているASUSのChromebook、C202SAというラップトップPCを買ったからですが、何を書こうか、と思って真っ先に浮かび、初めて記事にしたのは長男との自然観察のことでした。
何度も紹介してきたここ和歌山県田辺市の施設である、ひき岩群国民休養地「ふるさと自然公園センター」 における自然観察教室は、小学校3年生になった長男と、今も変わらず毎月参加しているのですが、ことブログに書こうとすると、私自身の自然科学に対する知識の浅さから、切り口が難しくて書けないまま時間が過ぎてしまうこともしばしば。息子の方は教室の先生方にもどんどん質問するし、図鑑や本もつらつら、ガリガリと読んでいきます。既に植物の名前と見分けなどは息子には全然敵わないレベル。
しかし誰でも初めはビギナー。怠惰かつ吸収の遅い中年になってしまった私はいつまで初心者なんだ、と思いつつも、「自然観察初心者」なりに、感じたこと、考えたこと、自然観察に感じる愉しさを、これからもあまり気負わずに書いてみたいと思います。私が書いているのは和歌山県田辺市という人口7万余りのいち地方都市の、小さなイベントに関する文章ではありますが、日本各地どんなところにも、「観察」しがいのある自然はまだまだあるのだということを、こうした教室を通じて日々感じています。しかも「日本ならどこでも同じ」では全然なく、地域の特色もはっきりとある。私自身には具体的知識としてなかなか積み重ならないのが(私自身が)残念ではありますが、どんどん吸収していく息子に励まされつつ、今後も息子たちと一緒に愉しんでいきたいと思います。
さて、前置きが長くなりました。
「鳥の巣半島観察会 ―里地里山保全推進事業 鳥の巣半島植生調査」に参加しました。
鳥の巣半島の海岸部。向こうに見えるのが、熊楠が保護運動に努め、昭和天皇が行幸されたことでも知られる神島。田辺市の沿岸部は、奈良県・和歌山県・三重県にまたがる「吉野熊野国立公園」の一部としても指定されています。
今回、5月12日に参加してきたのは、その名も『鳥の巣半島観察会 ―里地里山環境保全推進事業 鳥の巣半島植生調査』。鳥の巣半島は田辺市新庄町にある、田辺湾に突き出た小さな半島。小さな田畑と森、大小40箇所以上のため池があり、豊かな植生が残された景勝地であり、小集落です。沿岸には国の天然記念物に指定された泥岩岩脈が広がり、目の前の田辺湾には、数百メートル先に、南方熊楠が保護運動に努め、こちらも国の天然記念物に指定された島「神島(かしま)」があります。
この鳥の巣半島では近年、一部のため池内で、どこからやって来たのか、外来種であるアフリカツメガエルが繁殖し問題になっています。昨年には日本テレビ『ザ!鉄腕!DASH!!』でも取り上げられたりしていましたが、今も地元では調査、防除活動が続けられています。
半島を散策しながら見つけた植物・生物について、「いきものメモ」にメモしていきます。自然観察では、その日その場所で、「何を見た」ということを残しておくだけでも愉しいし、勉強になります。
今回はふるさと自然公園センターではなく、地元のボランティア「内之浦の自然を考える会」主催。午前中いっぱい、3人の先生方とともに半島内を巡ります。県の自然博物館の館長など、それぞれ動植物の専門の、地元の錚々たる面々の先生方で、田辺市でこの種の観察会に参加すると、しばしばいらっしゃるので、息子も既にそれぞれの先生方の顔と専門を覚えて、歩きながら質問・疑問を投げかけていきます。
――というわけで以下、写真と、当日のメモを見比べ見ながら振り返ってみます。晴天に恵まれ暑いくらいでしたが、長男はいつもように虫網片手に張り切ってトンボやチョウを追いかけたり、野草やシダなど、知っている植物を見つけては私に教えてくれたり、知らない植物や虫を先生方に訊いたりしていました。
トンボ、チョウにミズスマシ、アワフキムシ。鳥の巣半島で出逢った生きものたち。
イボタノキ(Wikipedia:モクセイ科の落葉低木。日本各地の山野に自生する)。道みち目に留まった植物は、少しでも気になれば先生方に訊ねます。なので、なかなか前に進まない。
鮮やかなパステルグリーン。シャクガの一種(幼虫はシャクトリムシ)。生物学的?(分類学的?)にはチョウとガの区別はないと言ってもいいそうです。
アワフキムシ(カメムシ目アワフキムシ上科の昆虫の総称)の泡巣。泡はアリなどの捕食者から巣の中の幼虫を守るためのものだそうです。
『ザ!鉄腕!DASH!!』でTOKIOの面々が入ったらしいため池。イトトンボやギンヤンマが乱舞し様々な水生昆虫なども暮らすこの場所を、この日の講師のひとり、D先生は「ここは私は密かにユートピアと呼んでる」そうです。そんなユートピアにも外来種で繁殖力の非常に強いアフリカツメガエルが入り込んでいて、防除に苦心されているようです。
クロイトトンボ。「クロ」と言いながら先端のブルーが美しく、彼らが何匹も、時につがいで乱舞する姿は確かに、さながらユートピアのようでした。
長男が網で捕らえたヒメゲンゴロウ。こうした水生昆虫やヤゴ(トンボの幼虫)が、アフリカツメガエルなどに捕食されてしまうそう。息子はこの後、より珍しい(生息数が減少している)ヒメミズスマシも見つけていましたが、写真撮影に失敗。逃がしたあとよく見たら、ピンぼけしていました。
ヨツボシトンボ。毛深く太い胴を持ったこのトンボは、どちらかというと北方系のトンボだそう。この日はこの1匹だけでした(オス)。トンボ博士であるM先生によれば、「どこかにメスがいると思うが、こういうとき、トンボのメスはなかなか出て来ないんだよね」とのこと。
直後、トンボに詳しいM先生がヨツボシトンボを捕らえて解説してくれました。熱心に聞き入る老若男女の参加者たち。
解説後、M先生の指先からなかなか飛び立とうとしないヨツボシトンボ。トンボ博士すごい!
今回も身近な自然を満喫することのできた自然観察会でした。海岸部を「吉野熊野国立公園」に指定されている自然豊かな街で暮らし、子どもたちに見せることができる環境に感謝しつつ、「自然保護を!」とあまり肩肘張らずに、これからも自分自身や子どもたちが興味を持ち続けていられるように、愉しんでいきたいと思います。
その他、今回見られた動植物たち。
今回見られた動植物たち(当日の野帳メモによる):シオカラトンボ、ハルゼミ、アカメガシワ、シゲオマイマイ(殻)、ガの幼虫、イボタノキ、アワフキムシ(巣)、イシガケチョウ、アオスジアゲハ、ウリハムシ、ヤマトシジミ、ヒメウラナミシジミ、テングチョウ、ニワゼキショウ、アオモンイトトンボ、シャクガのなかま、クロスジギンヤンマ、ヒメゲンゴロウ、ヒメコバンソウ、ハハコグサ、ヒメウラナミジャノメ、ラミーカミキリ、ハラビロトンボ、ヨツボシトンボ、ヒメミズスマシ、カスミサンショウウオ、ヒメツルニチニチソウ、モンキチョウ、トノサマバッタ など
テングチョウ
トノサマバッタ
ハラビロトンボ
ヒメウラナミシジミ
【自然観察では、メモのために「測量野帳」が欠かせません。持ち運びには、こんなケースを使っています。】
この季節になると気分が浮き沈みするけれど、赤江珠緒さんの復帰した『たまむすび』を聴くだけで少し嬉しい。
季節感と気分、クマノザクラ
季節感と気分、というのは年月を経るごとに固定化するのか、あるいはきっかけは何なのか、人それぞれだとは思うけれど、私はどういうわけか、この季節になると気分が浮き沈みします。
そんな人は多いと思うけれど年を取るごとに桜が好きになってきて、特に今年は私の住む和歌山県は紀南地域で、日本では100年以上ぶりの桜の新種「クマノザクラ」が文字通り発見された――クマノザクラはもともとこの地にずっとあったわけで、今になって湧いて出てきたのではないのです――ことを、(私ではなく)小学2年生の息子が嗅ぎつけてきたことで、息子共々桜に興味を抱いて、
「これはソメイヨシノ」「こっちの色づいた葉と同時に開いているのはヤマザクラ」「この白いのはオオシマザクラ」
と、見分けながらその彩りの違いを愉しめるようになりました。
オオシマザクラ(和歌山県古座川町の一枚岩にて)
そういうことは、直接いま私自身が置かれている状況とは関係なく、浮いたり沈んだりする気持ちをほんの少しだけ、ベースアップして浮かせてくれます。私は論理的に正しく、反論のしようのない完璧なロジックで構築された考えや、それらに基づいたプロダクトや世界観を提示されると、どこか自動的に反発するような、あるいは賛成しつつも少し怖いような、形容しようのない気持ちになったりするのですが、それさえも忘れさせてくれる。
赤江珠緒さんの<凄み>。
――産休・育休明けで一年ぶりに赤江珠緒さんがパーソナリティに復帰されたTBSラジオ、ウィークデイ午後のワイド番組『赤江珠緒たまむすび』をradikoプレミアムのタイムフリーで追いかけて聴きながら私は、息子と私にとってのクマノザクラのように、そういう心のアンバランスを均したり、ベースアップ、すなわち全体的に軽く、浮かせてくれる、赤江珠緒さんのお喋りの、<凄み>を噛みしめていました。
こういう感覚的で論旨のぼんやりとした文章に、そして自他ともに認める<ポンコツ>赤江さんのラジオでの振る舞いを形容して<凄み>とか<噛みしめる>なんて語彙を使うのはそぐわないかもしれないし書いていて私自身も奇妙な感じがしますが、赤江さんが月曜日のパートナー、カンニング竹山さんとのオープニングトークで、
“陣痛はマヨネーズ”
という持論を展開するのを聴くにつけ、やっぱり<凄み>としかいいようのないトーク無双、赤江さんのラジオを、この浮き沈みする季節にふたたび聴けるということは、私にとって僥倖と言わずして何であろう!という思いを深くしている、今日この頃です。
和歌山の冬は青空の下、そして満天の星空の下、川湯温泉の“仙人風呂”でゆったり。
もとい、「湯ったり」(言ってみたかった)。
ぼくはバスに乗り損ねてここに来た
バスには停留所もなく出発時間も決まっていなかった
ただ夜、夜とだけ記されていて
ぼくたちはみんなそれぞれの場所と時刻を見つけなければならない
バスとは宇宙船のようなものだった(友部正人詩集『バス停に立ち宇宙船を待つ』より)
川を掘ればお湯が湧く、その名の通りの「川湯温泉」。
このあいだの週末。和歌山県田辺市本宮町、熊野三山の一つ熊野本宮大社からも車で10分程のところにある川湯温泉の、「仙人風呂」を体験してきました。当地を流れる熊野川支流の大塔川の川底を掘れば温泉が湧き出す川湯温泉では、夏には水遊びをしながら川原や川底を掘って「マイ温泉」を愉しむことができますが、毎年この季節(12月から2月末まで)になると、川の一部を堰き止めた大露天風呂である「仙人風呂」が作られます。
そのサイズは幅約40メートル、奥行き15メートル、深さ60センチ(毎年若干の変動あり)。「1,000人は入れる」というのもあながち冗談じゃない広さです。
源泉73℃の温泉を、川の水で40℃前後のいい湯加減に調整しているそうです。
田辺市街地から車で1時間、熊野の自然に囲まれて入る野趣溢れる大露天風呂。
田辺市街地から車で1時間ほどであって、夏には水遊びにもよく行っている川湯温泉ですが、この仙人風呂は久しぶり、子どもたちにとっては初体験となりました。上の写真の道路を挟んだ上に並ぶのが温泉旅館で、写真では見切れていますが、写真の右上に駐車場、河原にも臨時の駐車場があります。
全体にぼかしを入れていますが、大きさが伝わるでしょうか。
温泉ですからプライヴァシーもあって写真でお見せしにくいのがちょっと難点ですが、仙人風呂は野外、しかも混浴ですから、水着着用が必須。予め水着を仕込んでおいて駐車場から直行するもよし、あるいは仙人風呂の向かい側にはちゃんと脱衣場もあります。ただどちらからも川原まではちょっと寒いので、頑張りましょう。
本当に野外、本当に川ですから、“野趣溢れる”とはまさにこのこと。
土曜日の昼間ながら、この日はまだ結構空いていました。まだ12月に始まったばかりなのと、普通に温泉旅館もある温泉郷ですから、夜の方が人気なのかもしれません。私も一度泊まりに来て、夜に仙人風呂に入ったことがあるのですが、本当に星空が綺麗ですよ。お湯がちょうどいい熱さになっているのが本当に不思議で、水量などをうまく調整しているのでしょうが、外気が冷たく寒いのもあって、入って温まっては外に出て、
「暑い!」「寒い!」「暑い!」「寒い!」
と繰り返すのが、(身体にいいのかどうかはわかりませんが)とても気持ちいいです。一つ気づいたのはここは本当に自然の川ですから、川原も川底も大小の砂利がゴロゴロしています。川原を歩くのに、クロックスなどの濡れてもいいサンダルがあると便利です(足裏がけっこう痛いです)。お湯の中は大勢が入るわけですから外履きはよくないでしょうけど、プール用のサンダルとかマリンシューズなどがあると、足腰に不安がある方はいいかも知れません。
お風呂に入りに来たわけじゃないけど、傍にはカモも来ていました。
後ろに見える仙人風呂との境界には湯気が立っています。
堰き止めた「仙人風呂」の外は普通の川ですので(といっても所々自然に温泉が湧いたりしていますが)、こうやってマガモが泳いでいたりします。(そういえば夏にはここでサンドイッチを食べていて、トビに襲いかかられたこともありました)
そしてこの川湯温泉の「仙人風呂」、12月〜2月末の期間中、6:30〜22:00まで、ずっと無料なのです。よしず張り(下写真)の囲いだけの開放感、脱衣場の掘っ立て小屋然とした感じなど、いい意味での緩さ、ひなびた感じが私は好きなので、こういうところで紹介することで映画『フィールド・オブ・ドリームス』みたいに一斉に観光客が殺到しても困るのですが(ないない)、ぜひ他府県、遠方の方にもおすすめしたいスポットです。
よしずの柵の左が仙人風呂。右は大塔川の流れで、仙人風呂の場所も川で、本来は繋がっています。川の中をよく見ると、おそらくカワムツやオイカワのような小魚が泳いでいました。
【川湯温泉および「仙人風呂」】
所在地:和歌山県田辺市本宮町川湯
※仙人風呂は12月~2月末までの実施。詳細は、下記熊野本宮観光協会ウェブサイト(川湯温泉のページ)などでご確認下さい。
http://www.hongu.jp/onsen/kawayu/
お風呂のあとにブックカフェでゆったり。新宮市熊野川町九重の「Bookcake kuju」。
そしてお風呂のあと。前述したように世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の熊野三山のひとつ、熊野本宮大社までも5キロ、約10分程なので、行き帰りに参拝するのもいいですが、私と同じ文化系の人へのオススメは、ここから新宮方面へ車で15キロ弱、20分程の新宮市熊野川町九重にある「Bookcake kuju」。廃校になった旧・九重小学校校舎をリノベーションしたカフェ+本屋さんで、本の選書は京都の個性派書店として有名な、「ホホホ座(旧ガケ書房」さんが手がけています。
今回は行けなかったのですが、11月の初めに訪れた際には「猟師」本が面陳されていてちょっとしたフェアのようになっていたりして、個性的なラインナップの本棚を眺めるだけでも愉しいですし、カフェのコーヒーも美味しいし、お隣には天然酵母、石窯焼きのパン屋さん「パン むぎとし」もあって、長時間のドライブの休憩がてら、ゆったりと過ごすことができます。こういう場所に来るとなぜか、大好きな翻訳家、藤本和子さんの本のタイトル、『どこにいても、誰といても』という言葉を思い出します。どこにいても、こういう時間がいちばん、貴重なものなのかもな、と思ったり。
和歌山県、紀伊山地のど真ん中らしく、「猟師」フェア。
大好きなフォークシンガー、友部正人さんの詩集を買うことができました。造本も素晴らしい、素敵な本です。(『バス停に立ち宇宙船を待つ』2015年、ナナロク社)
Bookcafe kujuも川のほとりの山の中。こんな場所に本屋があって、観光客や地元の人が思いおもいに過ごしているのです。
【Bookcafe kuju】
https://ja-jp.facebook.com/bookcafekuju/
【パン むぎとし】
http://www.mugitoshi.com/
所在地はどちらも:和歌山県新宮市熊野川町九重315番地(旧九重小学校校舎)
※連絡先、営業時間等詳細は上記各店舗のサイトをご覧下さい。
【文中で触れた本について】
井上陽水、高田渡らと同世代。歌も大好きですが、独特の言語感覚の詩も本当に素敵です。
リチャード・ブローティガンなどの名訳で知られる翻訳家・藤本和子さんが、アメリカ人の夫、ペルー生まれの娘、韓国生まれの息子との暮らしを綴ったエッセイ。
和歌山県御坊市の<日本一短いローカル私鉄>、紀州鉄道グラフィティ。路線全長2.7km、気軽に乗れて愉しめるローカル線の旅。
<日本一短いローカル私鉄>の紀州鉄道を往復。子どもたちを連れた週末の気軽な地元トリップ。
上記の前回記事でも触れたとおり、先週末の土曜日、和歌山県御坊市にある紀州鉄道に乗ってきました。御坊市は、大阪市内からJRでおよそ2時間、紀伊半島の西側の海岸線沿いのほぼ中央、いわゆる紀中地方の中核都市。人口2万4,000人程ののどかなこの街にある、<日本一短いローカル私鉄>こと、紀州鉄道。下り始発の御坊駅(JR西日本御坊駅内)から終点の西御坊駅までの単線で、計5駅、全長2.7kmを10分弱で運行しています。「日本一保有する路線が短い鉄道事業者」は、千葉県にある芝山鉄道だそうですが、芝山鉄道線は中間の駅が存在せず、全列車が京成電鉄との相互直通運転を行っているため、紀州鉄道こそが、<日本一短いローカル私鉄>だといいます。
紀州鉄道の下り始発、御坊駅はJR構内にありますが、独立した路線であって、市内を田畑のなかや住宅すれすれを縫うように、しかしゆっくりと走る列車には、地方の大都市を走る路面電車ともまた違う風情があって、私も好きですし、片道180円(小人90円)で気軽に乗れることもあって、男児二人(小2と2歳児)の我が家では、大きな予定を立てていない週末をのんびり過ごすには最適のレジャーとして利用させてもらっています。
前述の<日本一短いローカル私鉄>という特徴や、 2017年4月まで“日本国内最後の営業用二軸レールバス”(私は鉄道に詳くないのであまりわからないまま書いていますが、レールバス=バスの設備を利用したエンジン式の列車車両(気動車)の一形態だそう)を運行していたこともあって、週末私たちが乗りに行くと、しばしば鉄道ファンらしい、立派なカメラを構えたお客さんが車内外の様子を撮影したりするシーンを見かけます。
主に市民の足として利用され、高齢者の方や学生の姿をよく見かけますが、1日の輸送客が242人(2012年度。Wikipediaより)だそうで、経営的にはなかなか厳しいのかも。同じ和歌山県内にある、猫の「たま駅長」で知られる和歌山電鐵貴志川線のような派手さはないのですが、(市外に住んでたまに利用する者の勝手な希望かも知れませんが、)できればこれからも末永く、愉しませてもらえれば、という願いを込めて、先日訪れた際の模様を、写真とともに紹介します。
西御坊駅停車中。午後はおよそ1時間に1本の運行。下り終点・上り始発の西御坊には30分くらい停車しているので、乗車前に、ゆっくり写真を撮ったり車内を見学をできます。私たちのオススメは紀伊御坊駅から乗って上り終点の御坊駅まで行って、数分の停車ののち折り返しての往復乗車。30分弱で紀州鉄道と沿線の風景を満喫できます。
西御坊駅外観。狙った「レトロ感」ではなくそのものの昭和レトロ。こういう風景は本当に稀少だけど、これを愛でるのは贅沢なのかな?
西御坊駅停車中の車内から。住宅街のあいだを縫うように線路が走る。
紀州鉄道の車窓から。始発から終点まで、全長2.7kmをゆっくりと進みます。
下り始発の紀州鉄道、御坊駅。JR御坊駅の「0番のりば」にあります。
車内の様子。現在の車両は信楽高原鐵道から譲り受けたレールバス、すなわちバスの装備を流用した気動車(エンジンで走る列車車両)だそうです。
西御坊駅脇の水路には、水鳥のバンが来ていました。カメラを忘れたので、スマホを持って近づいたら逃げて行ってしまいました。長男と作っている私家版の「鳥写真図鑑」にはまだ収めていなかったので、こんな小さい写真だけど加えることにしました。
旧市街にある紀伊御坊駅で記念グッズを購入したら、紀州鉄道の「鉄カード」を頂きました。グッズ500円以上の購入でもらえるそうです。「鉄カード」は全国の私鉄各社が協力して発行しているトレーディングカード。
【鉄カード Facebook】
https://ja-jp.facebook.com/ZENKOKUTETSUKA/
【「鉄カード、発信!!」(紀州鉄道ブログ)】
http://www.kitetsu.co.jp/cafe/html/art/00066.html
お昼は御坊市内にあるラーメン店「幕末」にて。こってりの豚骨ながら、豚骨の臭みのない、食べやすい味だと思います。九州出身で長浜ラーメンの好きな私はさらに細麺の方が好みですが、味は文句なく、美味しいです。長男のお気に入りで、御坊に行くと必ずここで昼食になります。
【過去記事より、和歌山ののんびり観光案内。】
I Dub Fish, 鮎 Return to Sea.(熊野川落ちアユせぎ漁体験)
Some stay in the river
and some go out to sea
To keep this cycle in motion
I must go on
フィッシュマンズ「I Dub Fish」より(作詞・佐藤伸治)
少々わかりにくいタイトルになってしまいましたが、こちらは私の最も好きなバンドのひとつである、フィッシュマンズの「I DUB FISH」という曲の詞。このバンド唯一の英詞によるナレーション、ポエトリー・リーディングのようなスタイルで、“I am a fish”というフレーズから始まり、ある魚の一人称視点から、産卵のために海から川へ遡上し、孵った魚たちがまた海へ戻る、という回遊魚のライフサイクルを歌っています。
晩秋の熊野川でアユの伝統漁法を体験。
前回紹介した奇絶峡のイベントの前日、11月11日には、環境省主催のイベント「吉野熊野国立公園 熊野川の伝統漁法を学ぶ!」に参加してきました。こちらも小2の長男とともに。場所は和歌山県田辺市街から車で1時間あまり、熊野川の支流である大塔川の河川敷。そばには田辺市立本宮小学校があり、集合場所は小学校の駐車場でした。
石や木々(竹など)を並べて川を横断する堰(これを「せぎ」という)を作って、産卵のために川を下る、“落ちアユ”をせき止めます。
晩秋の今は、アユの産卵期。アユもまた、川と海を回遊する魚です。「I Dub Fish」に歌われる魚やサケなどとは異なり、アユの場合、生まれたあと、稚魚の間だけを海で過ごし、春になると川の上流へ遡上していきます。夏にかけて、主に川のなかの石に付着した藻類を食べて成長した鮎は、産卵期に下流域へと下りて行きます。
この時期に産卵のために川を下るアユ、すなわち“落ちアユ”を、「せぎ」によってせき止め、「小鷹網」(こだかあみ)という投網で捕らえるのが、熊野川の伝統漁法である「せぎ漁」です。
――そうしたことを当地の熊野川漁協の漁師さんにレクチャーいただいたあと、実際にプロの実演を見学しました。
一瞬の妙技! 小鷹網の格好良さ。
投網の瞬間。ぼうっとしてたら見逃してしまいそうな一瞬の出来事でした。
これがめちゃくちゃ格好いい。実演された漁師の方は、かなり年配のおじいさんでしたが(失礼! あとで新聞記事を見たら、御年88歳だそうです)、じっと川面を見つめてアユが集まってくるのを見計らいます。少し後ろの方から、参加者の私たちも見つめていましたが、少なくとも私には、きらきらと波打つ川面のせいで、なかなかうまく目視できません。しかし漁師さんは、瞬間、それこそ居合のように、静から動へ!
――網を投げ入れ、ゆっくりを投げた網の方へ歩を進めて網を手繰ると、そこに何匹もアユがかかっています。一投で、多い時は数十匹、最高では100匹以上かかることもあるそうです。
鷹が羽を拡げて獲物を捕らえる様子から名付けられたと言われる「小鷹網」に、何匹ものアユが。
お腹にたくさんの卵を抱いたメスも、繁殖期で婚姻色に色づいたオスも、たくさん獲れました。
そのあとは子どもたちに投網を体験させてもらったり、川の一部を囲って生け簀を作り、子どもたちや童心に還った「オトナコドモ」たちが、水浸しになりながらアユのつかみ取りに興じたり。息子も誰よりも全身びちゃびちゃになりながら、一心不乱にアユを追いかけていました(実は私も)。朝から準備していただいていたらしく、何十匹も、もしかしたら百匹以上もいましたから、すぐに捕まえられそうなものですが、川は彼らアユたちの領域。翻弄されながら、どうにかこうにか捕まえることができたときには、みんな満面の笑顔になっていました。
アユが指先からスルスルと逃げていく!
そして待ちに待った昼食。獲れたてのアユを青空の下、炭火焼きでいただく。
お昼は、そうやって獲れたたくさんのアユを、塩焼きにした試食会。これはもう、言葉はいらないくらいの美味しさ。写真を見返しているだけで、ブログを書いていることを忘れてしまいます。というわけで写真を御覧ください。
漁師さんやスタッフの方に教わりながら、自分たちで串に刺したり――、
更にまだたくさん。網焼きにしたり――。
そして昼食には、上海ガニの親戚(同属異種)であり、淡水のカニとして有名な「モクズガニ」も振る舞われました。カニミソが甘くて美味しい。
食事中、息子も地元紙の記者さんに取材を受け、「今まで食べたアユで一番美味しい」と申しておりました。
体験してこそわかる“川の恵み” 。
食後は、日本国内でも随一の清流と言われる熊野川の生態について教えていただきました。熊野川水系は河口から上流まで、ダムや堰といった河川横断物が少ないため、コイやカワムツ、アマゴといった純淡水魚だけでなく、アユやハゼのような海と川を行き来する回遊魚が多く、豊かな生態系が維持されているそうです。和歌山に住んでいると海や川などで遊ぶ機会は多いですが、意識していないと、こうやって改めて学ぶ機会は意外と少ないものです。
豊かな川の恵みに感謝しつつ、これからも子どもたちに(もちろん自分でも)、自然に触れ合う経験をたくさんさせてあげたいな、と思った一日でした。
熊野川で見られる魚たちについて、熊野自然保護連絡協議会の先生がその場で捕らえ、解説して下さいました。写真、縦縞が入っている2匹がカワムツ。横縞の一匹はオイカワ(右上)です。頭から尻尾が縦なので、魚が水平に泳いでいるとして、地面に対して水平に入っているのが縦縞、垂直に入っているのが横縞、ということになります。
※当日の模様は、スタッフとして来られていた、那智勝浦町にある「吉野熊野国立公園 宇久井ビジターセンター」のサイトにも掲載されていました。こちらはまだ訪れたことがないのですが、宇久井半島も一度行ってみたいです(和歌山は住んでいても広くて、まだまだ行ったことがないところがたくさんあります)。
【今回のBGM】
- アーティスト: フィッシュマンズ
- 出版社/メーカー: ユニバーサル インターナショナル
- 発売日: 2005/04/21
- メディア: CD
- 購入: 6人 クリック: 51回
- この商品を含むブログ (344件) を見る
フィッシュマンズ「I DUB FISH」は、1996年のシングル『SEASON』のカップリングとして収録されています(今は配信版があるのですね!)。上記ベスト盤『宇宙』2枚組のDisc2(レアトラックス集) 、 M7にも所収。フィッシュマンズのなかでもDub色の濃い、出色の、ドープで渋い味わいの一曲。
【自然観察の過去記事より】
歩く愉しみ。ウォーキング・イン・ザ・リズム奇絶峡。
歩くスピード落としていくつかの願いを信じて
冷たいこの道の上を 歌うように 歌うように歩きたい
フィッシュマンズ「WALKING IN THE RHYTHM」(作詞:佐藤伸治)より
自然観察教室「秋の奇絶峡(きぜつきょう)を楽しもう」
先日(2017年11月12日)、いつものように小学生の長男と二人、私たちの街<和歌山県田辺市>にある「ひき岩群ふるさと自然公園センター」主催で定期的に開催されている、自然観察教室に参加してきました。今回のテーマは、「秋の奇絶峡を楽しもう」。奇絶峡については、当ブログでも以前紹介しました。
上記の記事にも書いたとおり、奇絶峡というところは、両側の山から転げ降りたといわれる巨石のごろごろと並んだ、迫力のある渓流が雄壮で美しい景勝地です。
その川べりに降りて、水遊びをするのがこの街の夏の風物詩ですが、今は11月。この季節では紅葉が見どころで、週末には観光バスも立ち寄ってきます。とはいえ「自然観察教室」ですから、どういう感じの行程になるのかな、と思っていると、川に降りるのではなく、集合場所の奇絶峡の駐車場から川沿いの歩道を2キロほど伝って「奇絶峡トンネル」の手前の脇道に入り、まわりの風景や植物、生き物たちに触れ合いながら歩いていこう、ということでした。
「奇絶峡トンネル」の脇の道はこんなところ(ストリートビュー)
“ぼくらは歩く ただそんだけ”
そう、ただ「歩くだけ」。しかし、私たち(私と息子)は内心で小躍りしました。いや、息子には訊いていませんが、息子の足取りを見ていればわかります。ふるさと自然公園センターの自然観察教室で、一番面白いのが、先生たちや参加者と一緒に歩くことなのです。当たり前の話ですが、自然のなかを歩いていると、目の前の山にも足元の土にもありとあらゆる生物相・植物相が広がっていますが、そのほとんどを私たち素人は知りません。いや、いつだって見たことはあるのですが、例えば生い茂った竹林、山林のシダの群生を見て、それが何という竹で、何というシダで、なんて知らない。みな同じように見えたシダが、実は見えているその場所だけで何種類も何十種類もあったり、そんなことはわからない。
それを立板に水のようにスラスラ、さらさらと教えてくれるその道のプロの先生たちと一緒に歩くことができるウォーク・イン・ネイチャー。その愉しさに、初めは子どもと一緒でなければ参加することはなかったであろう私も、「子どもと一緒でなければ参加することはなかった」ということを恥じるくらいの気持ちに今はなるほど、ハマっています。
こういうものは文章で紹介されたものを読むより、体験する方が愉しいに違いないので、どういう切り口で書くかたいへんに迷ったのですが、先日ラジオを聴いていると、TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』の“秋の推薦図書特集”(2017年11月18日放送)で、レベッカ・ソルニット『ウォークス 歩くことの精神史』という本が紹介されていました。
本書は、「二足歩行と都市計画、ルームランナーと迷宮、ウォーキングクラブと風俗史、思考と文化と歩行の深い結びつきを証した驚くべき冒険の書。歩くことがもたらしたものを語った歴史的傑作。」という帯文を見るだけでワクワクするような、歩くことが人間にもたらしたものを考察した本ですが、これを番組で紹介されていた伊藤聡(@campintheair)さんは、オープンワールドゲームの『Fallout 4』も、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』も、『ブラタモリ』も、「歩き回っているだけで愉しい」っていうことを教えてくれるという意味で同じだ、という趣旨のことをおっしゃっていて、私はそれを聴いて奇絶峡を歩いた愉しさを思い出していました。
私は『ウォークス 歩くことの精神史』は未読なので、近いうちに買って読むつもりですが、今日は、今回私たちが歩いていて見つけたり、教えていただいたりしたものをいくつか写真とともに紹介してみることにします。
ウォーキング・イン・ザ・リズム奇絶峡。
――おそらく同じ奇絶峡を歩いても、ここに似たような他の場所を歩いても、人によって時間によって季節によって、見えるものは違うでしょう。そう思うと何度でも歩いてみたくなります。
このような巨石がゴロゴロしています。 右端の窪みは「大人(おおびと)の足跡」。
奇絶峡の名物、「不動の滝」。
……の下には、何か魚がいないかな、と思いましたが見つかりませんでした。
見上げると、ところどころ、巨石が道路に落ちないようにロープで括ってあるのが見えます。こういうのが落ちてできた景観ということか。
足許にはフユノハナワラビ(リンクはWikipedia「ハナワラビ属」)。ワラビと同じシダ植物。これも食べられるそうです。
フユイチゴを採って食べる子どもたち。“フユイチゴ・フリーク”な息子は、「まだちょっと酸っぱかった」とのこと。
通称「猫じゃらし」ことエノコログサ。穂の短いこれは「ハマエノコロ」だそう。
こちらも山菜としても美味しい、イタドリ(通称ゴンパチ)の枯れた枝を折った笛を吹きながら歩く。ウォーキングインザリズム!
成長して満開の果実をつけたイタドリ。
こんなものも。シロハラと思しき鳥の死骸(をつつく子どもたち)。
向こう岸の斜面林では色々な鳥が鳴いていましたが、この時期は、松茸狩などを目的とした入山権が入札されており、対岸への吊橋は渡れませんでした。
寒空の下で咲くノコンギクも綺麗でした。
【今回のBGM】
「WALKING IN THE RHYTHM」所収。1997年に、このアルバムのアナログ盤をリアルタイムで聴いたのが、私のこの世で最も好きなバンド、フィッシュマンズとの出合いでした。 「WALKING IN THE RHYTHM」にはシングル盤もありますが、打ち込みトラックのシングルよりも、生ドラムのアルバムヴァージョンの方が、今回のテーマに合うような気がします。
【2017年、これまでの自然観察教室から】
市街地から車で10分の奇景、“奇絶峡”(きぜつきょう)
河口から7km、車で10分の奇景の峡谷。
孤高の博物学者、南方熊楠のフィールドとしても有名な和歌山県の紀南地方、田辺市や白浜町には様々な景勝地がありますが、市街地のある河口から7km程度、車で約10~15分で行けるところに、その名も“奇絶峡”(きぜつきょう)という奇景の峡谷があり、先日の3連休の土曜日に家族で行ってきました。
会津川は奇絶峡の上流では秋津川地区を流れ、ここではなだらかな山間を緩やかに流れているが、奇絶峡では両側の山が急に迫っているために、それより下流にありながら上流域のような渓流美を見せる。また、両側の崖面から転げ降りたと思われる、巨大な転石が並んでいるのも独特の景観をもたらしている。
などとWikipediaにあるとおり、巨大な岩がごろころしたなかに、川が流れており、所々浅くなったり深くなったりしています。夏場などは子どもたちの格好の水遊び場所です。もちろん自然の景観ですから、安全面では十分な注意が必要です。先日は10月とは思えない陽気でかなり暖かかったのですが、それでも水温はかなり冷たい。
うちの子どもたちは2歳児と小学校低学年。下の子は浅瀬でパチャパチャ、長男も、調子に乗りやすい年頃なので、十分に注意させながら遊びました。
図らずも“実写版ポニョ”を体験。
入り組んで水の流れが堰き止められたようになっている場所もあって、小魚やカニを捕らえたりして遊んでいましたが、そこになぜか一匹の金魚がいました。おそらく誰かが放してしまったものでしょう。とりあえず長男がなんとか捕まえて持参した容器に入れたりしていましたが、結局は放すことに。誰かが持ち込んだものでしょうから、自然に放つよりも、私たちが持って帰って育てた方がいいのかも、とも思いましたが、どういう出自かもわからないし、息子もなんとなく気が進まないようでしたので。
次男は、ちょうど最近、『崖の上のポニョ』にはまっていることもあって、
「“実写版ポニョ”だねぇ」
というと喜んでいました。
ささやかな愉しみとしての景勝地。
川のすぐ側に迫る絶壁には、不動明王を祀る不動滝もあって、参道を100メートルほど回り込むと、滝の上に、不動明王の磨崖仏が彫られています。今回は下の子がまだ小さいのでそこまで行けなかったのですが、これはなかなか壮観です(磨崖仏は約7メートルほどの高さがあるそうです)。
何百人、何千人がどっと押し寄せるような観光スポットとはいえませんが、こういう場所が自宅からすぐに行けるところにあるのは嬉しいものです。磨崖仏の写真も以前撮りましたし、ネットでも少し検索すれば見ることができますが、これはあえて、載せたくないな、と思ってしまいます。地元で、現地に行って見るささやかな愉しみのような場所。とはいえ、他の土地に行ったときに、こういう場所が見られたらちょっと嬉しいだろうな、と思います。
奇絶峡には独特の植生、生物相もあるようですから、子どもたちともう少し勉強して、じっくり観察してみたいものです。
【奇絶峡】
場所:和歌山県田辺市上秋津
アクセス:公共交通機関…JR紀伊田辺駅から龍神バス龍神温泉・前平行きで15分。バス停「奇絶峡」下車。/自家用車…阪和道南紀田辺ICから県道29号経由7.5km15分。駐車場あり。
熊楠もフィールドワークした“ひき岩群国民休養地”で粘菌観察。
ちょっと失敗しましたが、顕微鏡にスマホを当てて撮影。
小学2年生の長男が夏休みである7、8月。
この間、和歌山県田辺市の「ひき岩群国民休養地 ふるさと自然公園センター」では、「自然観察教室」が計6回開催予定で、私と長男は、すでに終了した4回には全て参加しています。
今回は、7月22日の午後、午前中の「植物の採集・標本作製」に続いて行われた、「粘菌の観察」について紹介したいと思います。
粘菌研究でも知られる熊楠の暮らした地で。
和歌山県田辺市は、南方熊楠の英国から帰国後の永住の地。1929年(昭和4年)には、昭和天皇のこの地への行幸に際し、熊楠がキャラメル箱に粘菌標本を入れて献上したことが知られています。
また、ふるさと自然公園センターのあるひき岩群国民休養地(田辺市稲成町)周辺は熊楠が植物採集等のフィールドワークを行った地ということもあって、自然観察教室でも毎年この時期に、粘菌の観察会が行われています。
ただ、本日は粘菌を専門とする先生はいらっしゃらないとのこと。様々な生物に詳しい先生方は、私や長男のような素人からすれば神のような存在ですが、「微生物」を研究対象とされている先生も、粘菌は専門外だそう。生物、というのは広くて深い世界だと思わされますね。それでも、「粘菌かそうじゃないか、カビとかキノコとかとの区別くらいはお答えできますよ」と先生。
粘菌を探してみよう!
まずは外に出て、粘菌を探すところから。場所はふるさと自然公園センターの裏手の駐車場脇。センター裏は斜面林のようになっていて、その一角に、あらかじめ「その辺りから朽ち木や倒木を集めておいた」そうで、湿り気のある場所にそういったものがあれば、森林や山道だけでなく、実は人家の庭などでも見ることができるようです。ただしなかなか広い場所で、粘菌をピンポイントで探すというのはいきなりは難しいので、粘菌の好む環境をあらかじめ作っておいて、そこで発生した粘菌を探してみようというわけです。
すると意外なことに、けっこう次々に見つかります。カビやキノコもたくさん生えていて、私などにはパッと見なかなかわからないのですが、身軽に動き回ってしゃがみこんで、長男も見つけていました。
この赤茶っぽいのや、
グレーの、お線香の燃えかすみたいなのや、
びっしり覆っている白いの。
粘菌とは?――飼育?(栽培?)も可能?
粘菌は菌類学者が研究対象としたため粘菌、変形菌などと呼ばれていますが、
変形菌(へんけいきん)とは、変形体と呼ばれる栄養体が移動しつつ微生物などを摂食する“動物的”性質を持ちながら、小型の子実体を形成し、胞子により繁殖するといった植物的(あるいは菌類的)性質を併せ持つ生物である。
(Wikipediaより) 変形菌 - Wikipedia
ということで(センターの先生方も同様におっしゃっていました)、菌類とはまた別のカテゴリーなんだとか。その後、研修室に持ち帰り顕微鏡でも観察しました。やろうと思えば自宅で「飼う」?「栽培」?することもできるようです。実際、クワガタを飼っていて朽ち木に粘菌が繁殖したりすることもあるといいます。
ネットでも色々面白いものが見られるようですし(下記等)、熊楠の街に住んでいるのだから、もっと粘菌のことを知ってみたいな、と思った一日でした。
粘菌の変形体が迷路を進む動画
「ほぼ日刊イトイ新聞」の「粘菌のはなし。」
ところで国民休養地って?
ところで、前回、前々回と触れなかったのですが、そもそも「国民休養地」って何でしょうか? 私も長男とこのふるさと自然公園センターに通うようになるまで知らなかったのですが、田辺市のサイト内の、「ひき岩群国民休養地」のページにはこう書かれています。
自然とのふれあいが少ない都市やその近郊の人々に、ハイキングなど単なる一時的なレクリエーション活動の場を提供するだけでなく、そこに生きる植物等と人間との調和のあり方、また自然の保護育成に関して考える機会を作るための場所となることを目的としています。
その他、ウィキペディアや環境省のサイト等を見てみると、都道府県立自然公園内に、環境省からの補助金で整備でき、「中心施設として、ふるさと自然公園センターとして機能するビジターセンター(博物展示施設)を設ける」こととなっています。
貴重な「体験」「学び」の場。
ここ田辺市の「ひき岩群国民休養地 ふるさと自然公園センター」も同様の経緯でできたもののようですが、ためしに「ふるさと自然公園センター」で検索してみると、全国各地のふるさと自然公園センターが出てきますが、ここと同じような自然観察教室を行っているところは見当たりませんでした(私が見つけられなかっただけかもしれませんが)。
私も長男も、当たり前のように通っていましたが、この観察教室、確かに先生方の熱意で成り立っている部分が大きいように感じます。年配の先生方も多く、次男(2歳)が行けるようになるまで続いてるかな、と思ってみたり、いつまでも続いて欲しいな、と勝手に思ったりしていますが、ともかくも、いち参加者として楽しんで、せめてこういう文章で、面白さを伝えることができたら、と思います。
ひき岩群ふるさと自然公園センターにて。「植物の採集と標本作製」。
植物採集中に、枝にじっと止まって動かないトンボを見つけました。
本日はダブルヘッダー。
7月22日。7月17日に続き、「ひき岩群ふるさと自然公園センター」(和歌山県田辺市)での2週続けての自然観察教室。ふだんは月1回の、こちらでの自然観察教室ですが、子どもたちが夏休みの7、8月は、今年も計5日間6回の開催となっています。
しかも今日は午前、午後の2回。午前中は「植物の採集と標本の作製」、午後からは「粘菌の観察」です。
自然観察は長袖・長ズボンが基本。
植物は、わが長男の得意とする分野。田舎育ちのわりに草木の名前を全然知らず、ミュージシャンや作家等、カルチャー関連の固有名詞ばかりに耽溺してきたインドアな親の子であって、どうしてそうなったのか、2年弱、この自然観察教室に通いつめた結果、長男は、道端の植物をかなり見分けられるようになっています。
他の回もそうですが、この「植物の採集と標本の作製」も、我々は昨年に続き2度目の参加。勝手はわかっています。真夏ですが長袖・長ズボン(草むらのマダニなどの虫除け、そしてマムシなどが出る可能性もあります)、そして帽子。軍手をして大きなポリ袋を持って植物採集に出発!です。
今回、残念ながら前週の昆虫採集よりも参加者が少なく、小学生はウチだけでした。小学生は植物なんか興味ないのかな、などと軽く嘆いてみますが、私自身も子どもの頃は、全然興味を覚えなかったために、まったく草木の種別のわからない、無風流な大人になってしまっています。なかなか今の世の中、日常的に花鳥風月を愛でる暮らしを送るのは難しいもの。そんななか、こういった教室が身近にあって、気軽に参加できるのは本当にありがたいものです。端的に愉しいし。
大自然は足許から広がる。
さて、どんな険しい自然のなかに入って採集するのかな、と思うと、まずはセンターの建物のまわりの地面にしゃがみ込みます。そう、まるで自宅の庭の草むしりをするかのように、です。すぐに先生方が、「これは○○で」「こっちは×▲」と次々に解説して下さいます。
今回、あとで採集したものを調べられるから、とメモを取っていなかったのでその場その場での植物の名前(や特徴)を出せないのが残念ですが、こういうところがこの教室の醍醐味です。すなわち、対象を目の前にして、「その場で」「リアルタイム」で先生方のレクチャーが聞ける!ということ。息子など、私よりずっと先生方に慣れていて、「先生、これ何ていうの?」と次々に聞いていきます。
ここが豊かな自然に囲まれた場所、ということもありますが、例えば近所の公園や道端の雑草にも様々な種類があり、それぞれに名前があって、どこからでも自然観察ができるということ。よく言われることですが、この教室に来るとそれを肌で実感できます。
測量野帳は野外で本当に便利。
そして、書き忘れていましたが、自然観察のもう一つの必需品、それは紙とペン。見ていると先生方も参加者の方も、コクヨの測量野帳を使われている方が多いことに気づきます。私もいつも、ファミリーマートで売っている無印良品の(コクヨのOEMらしい)を持参していますが、これ、野外で使うノートとして、本当に使いやすいです。新書ほどのサイズで薄いので持ち運びしやすく、しかも厚紙入りの表紙が硬くて書きやすい。本当によく考えられた「道具」だと思います。
この野帳に、植物の名前や採集場所のメモを取ったり、時としてスケッチなどを描くのも面白いです。
スタンダードなタイプ。「野帳」にふさわしいグリーンのカラーが無骨でいい。
ビニールのカバーがついたタイプ。こちらは表紙の紙はやわらかいですが、濡れやすい場所ではこちらが便利かも。
愛用の「無印野帳」こと、「手のひらサイズポケットノート」
植物の採集方法について。
それからも近くを散策しながら目についた植物を、植物標本を作ることを念頭に置いて採集していきます。つまり、それぞれの植物の特徴を捉えることができるようにします。すなわち、
・小さい草などは根から(全体をまるごと)採集する
・できるだけ花や実がついているものを選ぶ
・大きな樹木の場合、枝先を切り取る
という感じ。植物標本は、八つ切り(新聞の1面の半分のサイズ)で作ることが多いので、採集するのはそのサイズに収まるくらいのサイズ、ということになります。ただし、大きいもの、長いものは折り曲げればよいので、採集のときはあまり厳密には考えません。
などとごたくを並べる前に、長男はどういう基準で選んでいるのか、興味を持った植物を先生に名前を訊いたうえで、「これ、ホシダ」「これはホラシノブ」「オニヤブソテツ」などと、私の手にしている持参した大きなポリ袋に次々と、入れていきます。ちなみにいま挙げた3つは全て、シダ類です。私にはなかなか、区別がつきませんが。
標本の作り方。――2週間は毎日吸水紙を換える!
採集した植物を新聞紙に拡げ、挟み込んでいきます
暑さもあって、30分から1時間程度で採集を切り上げ(それでもウチの袋はパンパンです)、クーラーの効いた研修室に戻って標本作製の開始です。植物も昆虫と同じ、ナマモノですから乾燥させる工程があり、今日だけで完成!とは行きません。
本日の工程は、
・取った植物を、大きく拡げた1枚を2回折った新聞(つまり、1面の半分のサイズ)に挟みこむ。長いもの、大きい物は茎などを折り曲げて、1枚に収まるようにする。新聞のオモテには、マジック等で植物の名前(わかれば)、採集場所、日にちを書いておく。
・その上に何も挟んでいない、同じ大きさの新聞を載せる。
・さらにその上に、別の植物を挟んだ新聞を載せる。
・以下、繰り返し。
こうやって何重にも積み重ねた新聞紙の上から、なるべく均一に重量をかけられるもの(石とか分厚い本とか)で重しをします。ようするに、「押し花」を作る要領。基本的にはこれだけです。
ただし、ここからが肝心。
あいだに交互に挟み込んだ、何も植物を入れていない新聞は、標本から余分な水分を取るための「吸水紙」です。これを植物によりますが、2週間から1ヶ月、毎日交換します。これをちゃんとやらないと、カビが生えてしまったり、色が黒ずんで、いい標本になりません。昨年もやったのですが、小学校低学年の長男には、この作業が面倒なのか、「やるやる」といいつつかなり私任せになってしまっていました。確かに毎日同じことの繰り返しで、退屈な作業なのかもしれません。ただ私は、吸水紙を換えながら、採った植物が毎日少しずつ、「標本」らしくなっていくさまを眺めていくのは、けっこう楽しいものだな、と思います。
「現場」だけでそっと教えられる裏ワザも。
この作業を簡略化する方法として、ある先生は、
「いまみたいな真夏だったら、車のループトップや単車の荷台にギュッとくくり付けて、日中一日走れば、シダみたいなものなら一日で乾く」
とおっしゃいます。
また、もうひとりの先生は、「吸水紙を紐で束でくくっておいて、交換したときに乾燥した場所に干しておけば、繰り返し使える」といった小ワザを紹介されていました。
植物標本の作成方法などは、ネットでも検索できますが、こうした実際に作業をする上で役に立つ情報を得られるのも、こういう場ならではなのかな、と思います。
大切なのは、「いつ」「どこで」「だれが」採集したのか。
きっちり乾いて乾燥した標本は、台紙(ケント紙など)に、和紙を細くテープ状にして貼り付け(セロハンテープは耐久性がないので不適。私はマスキングテープを使用しています)、ビニールの袋に入れて保管します。ここで標本として最も大切なものの一つ、ラベルを作成します。
ラベルには、
・植物の名称
・採集地
・採集者
・採集日
を記載します。
このうちとくに大切なのは、採集地、採集者、採集日だそう。
先生いわく、
「植物の名称は、モノがあるのだから、その場でわからなくても調べたり、専門家に聞いて同定できます。いつ、どこで、誰が採ったのかわかることが、研究のうえでも、新発見があったときにも重要なのです」
ということです。
昨年の教室で、長男と作成した標本
昨年は採集後の作業の大部分を私がやってしまったのですが、長男は今年、植物標本で自由研究をやる、と言っているので、今年はがんばってくれるといいなあ、と思っています。長くなってしまったので、午後からの「粘菌観察」は次回、紹介します!
※上記の記述のなかの、植物採集の仕方や標本の作成方法は、まったくの素人である筆者が、参加したこの教室等で聞きかじったり、その後多少調べた程度の知識ですので、誤っている部分もあるかもしれません。その点、ご了承のうえでお読みいただきますようお願いします。
“標本で表現する”――自然観察教室で昆虫採集と標本作製の本当の面白さを学ぶ。
「ひき岩群国民休養地」のふるさと自然公園センター(和歌山県田辺市)
7月17日。小学二年生の長男と二人で、「ふるさと自然公園センター」での自然観察教室に参加しました。本日のテーマは「昆虫採集と標本の作製」。
田辺市の施設であるふるさと自然公園センターは「ひき岩群国民休養地」内に整備されており、自然観察教室はほぼ毎月1回の開催。専門の指導員や高校の理科教員、行事によって近隣の博物館等の学芸員など、自然科学のスペシャリストの先生方の指導のもと、広く小学生から一般まで参加するこができます。
県外出身者である私はこの施設の存在についても、そもそも田辺市の自然環境についてもまったくの無知だったのですが、長男が幼稚園の年長になった頃に妻がこの自然観察教室の情報を入手してきて、以後ちょくちょく参加――というより、「植物の採集と標本の作製」「野鳥観察」「粘菌の観察」「夜鳴く虫をさがそう」といった毎回のテーマの面白さはもちろんのこと、子どもたちの質問攻めにも「わかることは答えます。わからないことは答えられません(笑)」とユーモアも交え気さくに答える先生方の人柄と博識に魅せられた長男が、毎月何を措いてもこの教室を楽しみにしていて、よほどのことがない限り毎回参加するようになりました。
今回のテーマは「昆虫採集と標本の作製」
今回の「昆虫採集と標本の作製」は、“夏休みの自由研究のお助け講座”ということで、参加者は親御さんと一緒の小学生の子どもたちがメイン(ウチもその1組)。とはいえこの自然観察教室、意外と参加者が少ないんですよね。今回も十数人といったところ。少子化とはいえ人口7万弱の田辺市にあって、このテーマなら、もっと子どもたちの参加があってもよさそうな気がするのですが、少人数のアットホームな雰囲気が居心地がいいのは長男も、実は私も同じ。あまり人数が増えて、ガチガチの運営になるのも嫌だし。こういっては失礼にあたるかも知れませんが、官製の施設のわりにラフな感じの運営はかえって好印象というか、参加者としてもキラクでいいのです。
南方熊楠も愛したひき岩の自然
施設内の研修室で車座になって簡単な説明を受けたあと、捕虫網を持って、「ひき岩群国民休養地」である近隣の自然を散策します。このあたりは田辺の市街地から5キロほどの、「ひき岩」と呼ばれる奇形の岩山が並ぶ丘陵地で、田辺市に暮らしたかの南方熊楠が、植物や菌類の観察や採集に明け暮れた場所ということもあって、豊富な植物相や生物相に恵まれています。散策コースも整備されていて、今回も小川や蓮池に沿って歩きながら、虫たちだけでなく、木々や草花、小川を泳ぐ魚たちを、先生方の同時解説つきで(!)見て回ります。
ヒキガエルに似た「ひき岩」。Wikipediaより
昆虫採集の必需品、「毒ビン」と「三角紙」
昆虫採集というと虫カゴを想像し、実際に子どもに持たせていたのですが、今回は標本作製が目標なので、カゴのなかで暴れて翅や脚が千切れたり、姿かたちが傷つかないように、酢酸エチルを含ませた脱脂綿を入れた「毒ビン」(主に甲虫に使用)に入れたり、パラフィン紙で作った「三角紙」(トンボやチョウに使用)に挟んだりして捕獲するのだそうです。ここらへんは昆虫採集の基本の「き」みたい。
アマゾンでも活躍した捕虫網で
この日はあいにくというべきか絶好のというべきか、ピーカンの夏日和で、子どもたちは汗だくになりながらトンボやチョウを追いかけます。それを見ている大人たち(というか私)も同じように夢中になります。先生たちも、先日アマゾン(仮想世界のマーケットではありません)での捕獲にも使用したという本格的で大きな捕虫網をいともたやすく振り回して、あちらも生存のために必死に逃げ回るチョウなどを、華麗に捕らえてみせます。
チョウだけでもキタキチョウ、モンシロチョウ、ベニシジミ、ウラギンシジミ、カラスアゲハ、アゲハチョウなどなど。とくに珍しいチョウではないのかもしれませんが、その場で名前や特徴がわかる、特徴や生態などについてプロフェッショナルに教えてもらえるというのは、子どもだけでなく大人にとっても、刺激的で面白いものです。
標本作製開始!
たっぷり午前中いっぱい、虫を追いかけまわしたあと、センターに戻って各自持参した弁当を食べて、午後からは標本の作製です。といっても、虫という「ナマモノ」を扱う昆虫標本は、「捕って出し」みたいなかたちですぐに完成するわけではなく、腐ったりムシが湧いたりしないように、しっかりと乾燥させる必要があります(こういうふうに訳知り顔で私が書いている解説は、全て先生方の受け売りです)。なので本日は、虫を殺す→展翅、展足を行い形を整えるといった標本作製の最初の工程――そしてそれは美しい標本を作るためにもっとも重要な工程なのですが――を行います。
慣れた手つきで標本作製に取りかかる先生
長男のカラスアゲハを使って、先生がお手本を見せてくれます。まず、チョウの胸の真ん中に、昆虫針と呼ばれる細い針を刺し、展翅板(てんしばん、と読みます)という、翅を見栄えのいい形に整えて拡げるための板(これは先生が発泡スチロールで作成し用意してくれていました)に、チョウを刺した昆虫針を固定します。そしてまち針を使って翅を、「綺麗な」「かっこいい」位置に微調整します。同じ虫でも、標本の出来映えというのは細かいところでずいぶん違いが出るということです。
「標本で表現する」ということ
「最近では小学生の科学展でも、標本を出す子が少なくなったんよ。というのは、評価する先生たちも標本を作ったことがないんよ。だから自由研究というと文章で表現するものと思ってるわけや。そやけど、標本で表現するのもありやと思う。文章にしないから劣ってるということはない」
とは、ある先生の弁。作ろうとしてみるとわかるのですが、いざ展翅、展足といっても、触覚や脚の向き、揃え方など、やっぱりそれぞれの生き物の特徴がわかっていないと、どういうふうに整えていいかわからないんですよね。蝶の翅にも丁度いい、格好いい角度があって、自分なりに「こうかな?」と思っていても、先生方にいわせると「もうちょっと高く」ということになります。
「標本作製におけるセオリー」ということでもあるのでしょうが、チョウならチョウで、その一匹、その一種類だけじゃなくて、色々なチョウを見て、触って、そして実際に標本を作って知っているから、「この角度が格好いい」となるのだと思います。
ふるさと自然公園センターに展示されている標本より
続ける愉しみ
さすがに小二の長男には(私にも)、いきなりのチョウの展翅は難しく、その名の通り翅の裏が綺麗な銀白色に輝くウラギンシジミの翅も、鱗粉が取れ、いたるところ破れてしまいました。しかしながらなんとか展翅板に貼り付け、その後もトンボやバッタなどの展翅、展足を終え、満足そうな長男の顔を見ると、今回も来てよかったな、と思いました。この楽しみを、子どもたちにも自分も、ずっと味わって欲しいし味わいたいから、この自然観察教室がいつまでも続いて欲しいと思い、極々微力は承知で、ここにこうして記録することにしました。
そして次週は長男の特に好きな、植物がテーマ。「植物の採集と標本の作製」です*1。田辺市や近隣の方は、ぜひ一度参加してみて下さい。この教室で聞いた生き物を、後で図鑑で調べたりするとなお楽しいです。
また、自然観察教室の先生方が編集に携わった「田辺市の自然観察ガイドブック」もふるさと自然公園センターで販売されています(250円!)。下記サイトでpdf版も無料でダウンロードできます。自然や生きものたちへの愛のあふれた楽しくてためになるガイドブックだと思います。私も長男と2冊買って、愛読しています。60ページほどのブックレットのなかに、沢山のたくさんの動植物の名前が出てきて、これを味わい尽くせるようになるにはまだまだだな、でもそれができたら本当に愉しいだろうな、と思います。
田辺市の自然観察ガイドブック[2017年改訂版](田辺市発行)
*1:「植物の採集と標本の作製」は2017年7月22日、実施されました。こちらに、参加した様子をまとめてみました。