ソトブログ

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映画『グランド・ジャーニー』――野鳥に安全な「渡りルート」を教える人間の執念。

 

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grandjourney

 

息子と4年半前に鳥見を始めるまでずっと、文化系オタクというか、音楽好き/映画好き/純文学好きのインドア人間だった私にとって、最も私淑し敬愛するミュージシャン、故・佐藤伸治氏擁する“Fishmans(フィッシュマンズ)”、という一風変わった名前のバンド(彼らには、“The Three Birds & More Feelings”という素敵な「鳥タイトル」のMV作品集もあります)がいるのですが、今回取り上げる作品は魚ではなく鳥――フランスで“バードマン”の愛称で親しまれている、奇特な人物が生み出した映画です。

 

グランド・ジャーニー』Dnne-moi des alles(ニコラ・ヴァニエ監督、2019年、フランス・ノルウェー合作)

映画「グランド・ジャーニー」公式サイト

 


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グランド・ジャーニー(字幕版)

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  • ジャン=ポール・ルーヴ
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“バードマン ”が挑んだ、奇想天外なプロジェクト。

絶滅危惧種の渡り鳥により安全な「渡りルート」を教える、という無謀にも思えるウソのような本当のプロジェクトを、それを敢行した当の本人が脚本化したというこの作品。気象学者であり鳥類保護活動家であるクリスチャン・ムレク氏が採ったその方法とは、野鳥たちが生まれる瞬間からつきっきりで世話をし、インプリンティング(=刷り込み)によって彼らの親代わりの存在になったのち、超軽量飛行機(ULM)で野鳥たちを先導して飛行ルートを指導するという、訊けばきくほど無茶な試み。

 

しかしこのULMで鳥を先導するという方法、野鳥好きなら一度は観たことがあるであろう、本作に先行すること約20年前の、傑作/労作ドキュメンタリー映画、WATARIDORI』原題:Le Peuple Migrateur(ジャック・ペラン総監督、2001年、フランス)の撮影でも採用されているものであって、それもその筈、当のクリスチャン・ムレク氏も『WATARIDORI』の制作に携わっていたといいます。しかもその『WATARIDORI』の特別版DVDに収録されたメイキング・フィルムを観ると、そうした試みは彼が最初ではなくて、先達がいることがわかり、彼らの執念には驚かされます。

 


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冒険活劇の底にある、執念と自己肯定感と、人間の英知への絶対的な信頼(ちょっと引くくらいの)。

ストーリーを詳らかにする「ネタバレ」的な野暮は避けますが、感動的な大団円を迎える劇映画に仕立てられた本作では、ムレク氏本人を投影したキャラクター、プロジェクトにパラノイアックに没頭する学者・クリスチャン以上に、まだティーンエイジャーであろう息子・トマが大活躍して、まるで『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』をはじめとするジブリ作品を思わせる冒険活劇の趣さえ漂わせます。

 

自身の偉業を、犯罪すれすれというか、法的にはアウトの手練手管を駆使したり、フィクションの要として父・息子の確執から共同作業をへて絆の物語へと、これ以上ないくらいドラマチックに構築する(ムレク氏のプロジェクトは実際には、夫婦で成し遂げたものだそう。※上記YouTube『グランド・ジャーニー』特別映像参照)、見方によっては尊大にさえ思える手法・姿勢には、「渡り鳥の保護のためのルート指導」という現実の計画においても、目的の達成のためには自然にも積極的に介入する方法論と相通ずる(そしてそれは、ジャック・ペランが「フィクションでもドキュメンタリーでもない、“自然の物語”を撮りたかった」と言った、『WATARIDORI』の撮影方法にも通じています)感じがあって、その自己肯定感の強さと人間の英知への絶対的な信頼には、個人的にはちょっと引くくらいの気持ちになりますが、それでもやはり、私たちにも見習うべきところがあるような気がします。今の世の中、“言いたいことはちゃんと言うべきだし、やりたいことはやるべし”。

 

今回取り上げた『グランド・ジャーニー』は、いつも探鳥会で息子ともどもお世話になっている方からご紹介いただきました。野鳥は古くから人間の文化史、精神史の身近にあると見えて、近年でも一般名詞としての「鳥」や具体的な鳥の名前がタイトルに使われた映画はいくつもありますが、その多くが人間ドラマや社会的なテーマを描くための、「メタファーとしての鳥」であって、野鳥そのものを正面から扱った作品は意外と少ないと感じています。とはいえ浅学な私が知らないだけで、古今東西の文化史・カルチャー史のなかにはもっと沢山の、「野鳥作品」の数々があるのかもしれません。拙文を読んで下さった皆さん、どうぞご教示下さい。

 

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