ソトブログ

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誰かのために作ったプレイリストを他の誰かが聴き、よく日の当たるこの部屋では音楽はマジックを呼ぶ。

 

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よく日の当たるこの部屋では 音楽はマジックを呼ぶ
地上7m この部屋では 太陽は人を変えるよ

フィッシュマンズ/Melody(作詞:佐藤伸治)より

 

Amazonプライム契約のみで聴けてしまうPrime Musicは気軽に使える音楽ストリーミングサーヴィスとして重宝していて、私の場合、月に1回、自分用のプレイリストを作り、それを繰り返し聴く、というのをここ数ヶ月続けています。手前勝手な自分内ルーティンですが、こういう聴き方をしていると、小遣いをためて選びに選んだCDを買って、それを繰り返し聴いて好きになっていた頃のように、1曲1曲が心に残っていくような気がします。それはあくまで擬似的な体験ですが、Amazon Musicのようなプラットフォームのいいところは、そうして作られたプレイリストを共有して、他の誰かに繋がる可能性が開かれていること。あくまで「可能性」ですけどね。

 

 プレイリストでできた一冊の本。

 

 

――けれどそんなものが影も形もなかった時代のプレイリストが、時を超えて海を超えて届いた奇跡のような例が、この『ラブ・イズ・ア・ミックステープ』。ロブ・シェフィールドという1967年ボストン生まれの音楽ライターによるエッセイには、各章ごとに、彼自身や彼の恋人であり後に妻になった女性、レネや、友人たちが作ったミックステープ(お気に入りの曲を集めた私的なカセットテープ、すなわちプレイリスト)が、曲目とそれにまつわる思い出とともに紹介され、綴られています。冒頭の章は、レネが作ったというミックステープのタイトルから、「ランブルフィッシュ 1993年3月15日」と名付けられています。そこには、ペイヴメントの「Shoot the Singer」から始まって、ザ・スミス、L7、R.E.M、10,000マニアックスといった80〜90年代のロック・チューンが挙げられている(収録されている)のですが、実はロブ・シェフィールドの最愛の人であるレネは、1997年に亡くなっているのです。

 

 僕とレネは一九八九年九月十七日に出会い、九一年の七月一三日に結婚した。五年と十ヵ月間、夫婦だった。一九九七年五月十一日、レネは自宅で僕といるときに、なんの前触れもなく肺塞栓症でこの世を去った。享年三十一。今はヴァージニア州プラスキ郡、<ウォルマート>脇の丘に眠っている。
 B面がベリーのお粗末な曲の途中で途切れると、僕はテープがカチャリと止まる音を待つ。そしてテープをひっくり返し、再生ボタンを押す。一時間前に聴いたばかりのA面一曲目、ペイヴメントの「シュート・ザ・シンガー」がはじまる。僕はまだ、この曲たちに用がある。もうしばらく起きていよう。レネが離してくれないから。

 

ロブ・シェフィールド『ラブ・イズ・ア・ミックステープ』(雨海弘美訳、ヴィレッジブックス)より

 

 

具体的な「誰か」に向けられた音楽を聴きたい。

 

 

この本に倣ったわけではないのですが、二年前、久しぶりに私も妻の誕生日にミックスCDを作りました(アイキャッチの画像のCD)。こういうものは自己満足の最たるもののようで、相手がどれくらい歓んでくれるものなのかわからないけれど(実際今このCDは妻ではなく私の手許にあったりするし)、「それを作っているその時間、その人のことを考えて、その人に向けて」作るところが私は好きなのです。

 

音楽や本(小説)にもそういうふうに成立しているものもあって、あるいはこういうブログのような文章でも、不特定多数に向けられたもの、ではなくて、特定の誰か、それが実在する誰かでなくても、書いた本人が読み手として想定している具体的な人格を持った誰か、に向けて書かれ、発信されていると思えるものを、読み、聴きたいのです。

 

そんなことを思いながら2018年2月のAmazon Musicでプレイリストを作って、ミュージシャンとして活動している友人に、それを送って、(なかば強引に)リクエストしてみたら、彼から、とても素晴らしいプレイリストが届きました。それがこの、スギーリトルバード氏による「ソウルバー<杉>」です。

 

プレイリスト「ソウルバー<杉>」by スギーリトルバード。

 

Amazon Music プレイリスト「ソウルバー<杉>」
by  スギーリトルバード(公式サイト「スギーリトルバードWEB」

 

私が愛聴しているラジオ番組、ジャズ・ミュージシャンの菊地成孔さんがパーソナリティを務める、『菊地成孔の粋な夜電波』(TBSラジオ)。その名物企画である「ソウルバー<菊>」は、ふだんはトークとともに数曲を紹介する1時間の番組が、まるごと菊地さんのノンストップDJになるのですが、彼は彼自身も聴いているその番組を、私がファンであることを知っていて、作ってくれたのです。そして実はソウルやブラックミュージックにそれほど造詣の深くない私にとっては、お手本のような格好良さです。

 

2018年2月の私のプレイリスト。

 

レコードやCDから1曲1曲カセットやMDにダビングしたり、CD-Rを焼いてジャケットをわざわざフォトショップで作ったり(その手間じたいは私は好きですし、人からもらうなら尚更ですが)、なんてことをしなくても、思いついたらすぐこうしたプレイリストを作れてタイムラグなしに人に届けられるなんて、改めていい時代になったと思いませんか? 私は実のところ、最先端のテクノロジーやサービスに手放しで乗れるたちではないのですが、こういうことがあると、手軽に音楽に触れられれるストリーミングも悪くないな、と思っています。今はまだPrime Musicだけの私のAmazon Musicも、そろそろMusic Unlimitedを契約したくなってきている自分がいます。ちなみに、2月の私のプレイリストは以下のとおり(もちろんPrime音源のみ)。

 

M01. Money Mark/Whatcha Going Thru
M02. 小島麻由美/ハートに火をつけて
M03. The Cranberries/Linger
M04. Paul Weller/Sweet Pea, My Sweet Pea
M05. Beverly Kenny/Do It Again
M06. Madeleine Peyroux/Dance Me To The End of Love
M07. マイア・ヒラサワ/話せてなかったこと
M08. Gretchen Parlato/Butterfly
M09. Devendra Banhart/Losing My Taste For The Night Life
M10. The Shacks/No Surprise
M11. Sting/One Fine Day
M12. Aimee Mann/Save Me
M13. Macklemore & Ryan Lewis/White Privilege Ⅱ(feat. Jamila Woods)
M14. Johnny Cash/Heart Of Gold
M15. Rasmus Faber/I Do(「攻殻機動隊 Stand Alone Complex」より)

 

2018年2月のプレイリスト「2018.02_Heart Of Gold selected by Soto」

 

これを読んで、誰かにプレイリストを届けよう、と愉しんでくれる人が一人でも増えてくれたら。そして、できれば(Amazon Music限定ですが)ついでに私に送ってください(Twitter(@t_soto)またはメールフォームまで)。誰も送ってくれなくても、来月もこういう記事、書くつもりですが、もし送って頂けたら、ここで紹介できたりしたら、尚嬉しいです(私が)。

 

【過去記事より、プレイリストのススメとプレイリスト映画のススメ。】

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