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『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の前に、トム・クルーズの初期の傑作群を観直してみる。

 

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【2018.8.13追記】 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』、ようやく観ることができました。レビューはこちら。
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 ――以下、本文に戻ります――

 

トム・クルーズ製作・主演の『ミッション:インポッシブル』シリーズ最新作、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』が公開になりました。近年映画好き、トム・クルーズ大好きになった私は今回初めて、本シリーズの劇場公開に立ち会えそうです(2018.8.9現在未見)。だから、というわけではないのですが、今回、改めてトム・クルーズの'80~'90年代の初期出演作を観返して(というよりほぼ初めて)みました。作品の趣や質はさまざまですが、どれもトム・クルーズの存在感ははっきりと光っていて、30年以上この輝きを維持・発展させてきた彼の凄みを改めて感じました。今回はそのなかから、特に3作品を紹介したいと思います。

 

『タップス』Taps(1981年、監督:ハロルド・ベッカー)

 

 将来の将校となるべく12~18歳の少年たちが学ぶ「バンカーヒル陸軍幼年学校」(Bunker Hill Military Academy)を舞台とした群像劇。廃校の危機にさらされた本校の生徒の“反乱”と“挫折”を描く――ということで、全寮制の厳格な寄宿学校もの『いまを生きる』や、士官候補生の青春と挫折を描いた『愛と青春の旅だち』――、日本の小学生たちのひと夏の反乱『僕らの七日間戦争』――等々を想起しましたが、この『タップス』は、それらと比べても、なかなかシビアなお話です。

 

そもそも「陸軍幼年学校」というのに馴染みがないのですが、これは戦前の日本のそれとは違い、アメリカ軍の正規の組織、学校ではなく、私学。とはいえ(本作内で見る限り)軍隊式の規律と“名誉”(この文言(honor)がキーワード的に繰り返し出てくる)を教え、学内においても生徒に対し「少佐」などの階級を与え、卒業後は士官学校に進んだりと、軍隊さながらの教育機関のようです。

 

そのなかでエリートとして、学生のトップである「生徒指揮官」となるのが主人公、ブライアンなのですが、彼を演じるのは当時売り出し中のティモシー・ハットンで、トム・クルーズの役どころは彼の同期にして右腕的存在のデイヴィッド。直情型のキャラクターが、若い頃のトムの「眼力」とマッチしていて見せ場も多く、群像劇ということもありますが、はっきりと主役を食っています。本作には他にも、同じく級友で重要な役としてショーン・ペンも出演しています。ストーリーとしては現代の視点で見ると荒唐無稽にも思え、まだ幼い下級生を巻き添えにする、暴走でしかない主人公たちの行動にはちょっとついて行けないところもあるのですが、彼らの「青春スター」というサイズに収まらない熱気を感じるだけでも、今も観る価値のある良作だと思います。

 

『トム・クルーズ/栄光の彼方に』All the Right Moves(1983年、監督:マイケル・チャップマン)

 

 『タップス』から『アウトサイダー』『卒業白書』などを挟んだ、1983年の主演作品。ペンシルバニアにある鉄工所しかない町の高校生であるステフ(トム・クルーズ)の、アメリカン・フットボールと恋と進学を巡る青春ドラマ。ストーリー的にはそれほどひねりのない、よくあるティーンエイジ・ムービーなのだけれど、だからこそ、トムの天性のキュートさが際立ちます。筋立てを聞いて、甘いマスクに身長170cmと小柄なトム・クルーズが、ハイスクールとはいえアメフトの選手に見えるのか、とも思いましたが、きっちりパンプアップした身体が文字通り跳ねていて、この頃のトム・クルーズの陽性の輝きと相俟って、学園のヒーローたるジョックスを華麗に演じています。

 

「ペンシルバニアにある鉄工所しかない町」というとドナルド・トランプ現大統の勝った2016年の大統領選でも話題に上った「ラストベルト」(Rust Belt)地帯だと思うのですが、そうした時代に取り残された街、という雰囲気、1980年代前半のアメリカ、そしてアメリカ映画の埃っぽい雰囲気のなかに、トム・クルーズという異物=輝かしい原石(そして実際には、既に青春スターである)というミスマッチを置くことで、主人公ステフの、「こんな街を脱出したい」という現状への居心地の悪さをうまく、表していると思います。後に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のヒロインを演じる、本作の相手役のリー・トンプソンとともに、タイプキャストとも言えるのですが、だからこそ成功している好例でしょう。

 

青春映画としては凡庸な部類だとは思いますが、この時期のトム・クルーズの美しい肉体美(それにしてもよく脱ぐ人だ)を収めていること、後の『ザ・エージェント』に繋がる?アメフトもの、ということで、意外と外せない作品かもしれません。

 

『遙かなる大地へ』Far and Away(1992年、監督:ロン・ハワード)

 

 こちらは少し年代が下って1992年公開。1990年の『デイズ・オブ・サンダー』で共演し、その後結婚したニコール・キッドマンとの結婚後初の共演作としても話題となりました。

 

19世紀アメリカ、オクラホマへの入植競争、所謂“ランドラッシュ”を描いた歴史劇。西部劇でも南北戦争でも、現代の対テロ戦争でも同じことですが、アメリカの史劇というとその「負の側面」、例えば本作でいえば、ランドラッシュの背景には、インディアンからの土地収奪という面があるはずであり、それを抜きに「未開拓の土地を求めるアメリカンドーム」が強調されると、多少「勝手だなぁ」というか、鼻白む感じもあるのですが、この映画はトム・クルーズのまたしてもの直情とユーモアたっぷりのキャラクター、それに輪をかけたニコール・キッドマンの、いつも眉間にしわを寄せて目を吊り上がらせたような勝ち気さで、そこは吹っ飛ばしています。それはそれで考えさせられるところもありますが、この映画では彼らの「アメリカン・ドリーム」に乗るしかありません(そしてそれは、確かに、滅茶苦茶魅力的ではあるのです)。

 

この頃までのトム・クルーズの(役における)キャラクターとして、『トップガン』にしても『ハスラー2』にしても、「跳ねっ返りの若造が、その才覚で成り上がる」というタイプがあると思うのですが、この映画もまさにそれ。端正な顔立ちの彼の、“沸点”を超える瞬間がもっともチャーミングだというのは本当に映像的な、映画的な魅力、愉しみだと思います。そしてそれを、例えば後の『ザ・エージェント』の有名な“Show Me the Money!"のシークエンス、そして本作の、シャノン(ニコール・キッドマン)との同衾のムラムラに耐えられなくなってベッドを飛び出し、「賭けボクシング」に飛び入りして有り余るエネルギーを発散させるシーンのような、笑っちゃうような異常なテンションで演じきり、物語の求心力にもなっていく様は、正しくスターのあり方そのものと言えるでしょう。

 

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